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広報の役割は物語を紡ぐこと?:広報にとって成功とはなにか(後編)

PR COMPASS

連載「広報の本質を求めて」
いま広報PRに求められる役割は、かつてないほど多様で、複雑なものになっています。会社を取り巻くステークホルダーの多様化、市場環境の複雑化。そうした変化に対応するためには、闇雲にプレスリリースを配信したり、人目を引く企画を立てたりするだけでは不十分です。一貫したブランド・ストーリーを紡ぎ、効果的なPR戦略を立案する。消費者だけでなく、社会全体の動向を深く理解し、コミュニケーションを図る。本連載では、そんな新しい広報の姿について、Story Design houseの新井がリアルな事例を紹介しながら考えていきます。

新井 達斗志(あらい・たつとし)
Story Design house株式会社 Senior PR Planner。早稲田大学商学部卒業後、大手人材サービス会社へ入社。営業、営業企画を経験。Story Design house へ転職後は、事業会社での経験を生かして、スタートアップや、大企業の新規事業を中心に、PRを核としたコミュニケーション戦略の策定〜実行およびメディアコミュニケーションを数多く担当。またスタートアップ、新規事業におけるPRについてのイベントや勉強会などの企画も行う。

広報の役割は多様なステークホルダーとの関係構築

前回の記事では、広報という仕事において「成功」を定義することの難しさについて考えました。広報・PR領域の活動は、すぐには結果が見えづらい反面、思わぬところで成果につながるという複雑な性質があるからです。

今回の記事では、広報はどのような「役割」を担うべきかについて考えたいと思います。成功の定義は難しくても、役割は定義できそうです。定義できれば、それをまっとうすることも可能になります。

まず、言葉の意味から考え直してましょう。「広報」という言葉は英語で「public relations」。「パブリック」(公共的)な「リレーションズ」(関係性)をつくることが広報なのだというわけです。つまり、広報という言葉そのもののに、社会全体と──その中に存在する多様なステークホルダーたちと──関係を築いていくということが含まれています。

SDGsの潮流などを思い浮かべれば明らかなように、今の時代、広報に限らずビジネスのあり方そのものに対して、こうした「三方良し」が求められています。裏を返せば、それをずっと追い求めてきた広報の役割は、ビジネスのなかでより重要度を増しているとも言えます。

広報が多様なステークホルダーとの関係性を培う。その役割を果たすうえで、特に注目しなければならない存在がいます。それが「信頼性を担保しなければならないメディア」「情報を発信する個人」です。

メディアの変化──これまで以上に重要な「信頼」

まずメディアについてです。PRパーソンにとって、メディアはもっとも関わりの深い存在ではないでしょうか。プレスリリースを送ったり、記者会見を開いたり、その多くの活動がメディアとかかわるものです。

しかし、フェイクニュース問題やコロナ禍などをきっかけに、メディアを取り巻く状況は変わってきました。新聞・TV・Webメディアなどあらゆる媒体が、「信頼できるメディア」であり続けるために、さまざまな工夫をこらさなければならなくなったのです。

たとえば、総務省が公表している情報通信白書 令和3年度版では、メディアに対する市民の意識を調査しています。そのなかに、「メディアに対する信頼」についての質問があります。「信頼できる」メディアと回答されたものは、新聞(61.2%)、テレビ(53.8%)、ラジオ(50.9%)の順に多く、マスメディアに対する信頼性の高さが浮き彫りになりました。

一方で、「信用できない」メディアと回答されたものは、掲示板やフォーラム(44.9%)、動画投稿・共有サイト(31.0%)、ブログ等その他のサイト(30.6%)やSNS(27.5%)が多くなっています。これをみると、インターネットを利用したメディアの中でも、ユーザー自身が投稿できるものは信頼が低くなっていることがわかります。

近年、SNSを中心とした情報が影響力を増していたことを考えると意外な結果のような感じも受けますが、緊急時にはフェイクニュースや誤情報ではなく、信頼できるメディアから正確な情報を取得したいという意識が高まることが伺えるのではないでしょうか。

こうした信頼を裏切らないことが、新聞・TV・Webメディアなどあらゆる媒体に求められています。それに伴って、メディアに情報を伝えるPRパーソンもまた、記者やライターへの情報伝達や、その際の情報整理、重みづけを見直さなければならなくなっています。PRパーソンに求められるメディアリテラシーが高まっているとも言えるでしょう。

個人の変化──情報発信の新しい主役

次に個人についてです。現代では、会社としての公式発表以上に、経営者や発信力の高い社員の「個」としての発言がこれまでよりも大きな意味を持ちはじめています。

たとえば、経営者のツイートが炎上して事業活動に支障をきたすといったマイナスの影響もあれば、社員の何気ないつぶやきによって会社に大きな注目が集まるといったプラスの影響もあります。

あるいは、社内だけではなく、顧客による情報発信もありうるでしょう。自社の商品についてインスタグラムで紹介したことで、ブランド価値が高まり売上が上がることもあるでしょう。昔からある「口コミ」と同じことですが、これまでとは比較にならないほどの大きさな効果をもつようになっています。

政治家のツイートが政局を動かすように、経営者や社員、顧客の「個」としての言動が、会社のビジネスに影響を与える事例は当たり前のものになりました。

こうした事象は、メディアにプレスリリースを出すといった伝統的な広報の手法だけではなく、個の力を最大化する新しい広報の必要性を示しています。率直に言って、「個」とPRパーソンが向き合う方法については、まだ各社とも模索している段階でしょう。

しかし、少なくとも確かなことがあります。それは「受け手がどのように感じるか」を常に意識するということです。会社の発信する情報や何気なくつぶやいたメッセージを、個人を含めたさまざまなステークホルダーはどのように感じるでしょうか。そんな一般的な感覚、つまり市井の感覚を磨いていくことが必要です。

近年、SNSで「炎上」してしまったさまざまな事例を見ていくと、そうした市井の感覚の欠如を伺わせるところがあります。企業が社会的な責任を果たし、社会の公器としての役割を担うことをこれまで以上に求められている状況を理解する必要があるでしょう。

たとえば、従業員を雇用する責任ユーザーへの誠実さ地域社会への貢献SDGsを含む地球環境への配慮……みなさんも消費者としてそうした期待を企業に抱くことがあるのではないでしょうか。ただ、自社の利益を追求すればいいという時代ではなくなっているのです。

公共性を担う

多様なステークホルダーとの関係性を構築する。そんな広報に求められる役割について、「メディア」と「個」という2つのケースから考えてきました。どちらにおいても、複雑かつ緻密なコミュニケーションが求められているということがおわかりいただけたと思います。

最後に、具体的な方法論から離れて、それらに共通する原則について考えてみたいと思います。少し前に話題になった書籍に、ユヴァル・ノア・ハラリ『サピエンス全史』があります。

この本では、人間のもつ「物語=共同幻想を描く能力」が、人類の文明を発展させた重要な要素として取り上げられていました。神話に代表されるような物語をわかちあうことによって、人間は協働に向かうことができる──私たちのそうした性質は、科学技術が発展した現代においても変わりません。

多様なステークホルダーとかかわることが求められる現代の企業にとって、この考え方はきわめて重要です。広報として会社の取り組みを伝えようとすると、どうしても自社の商品の価値自社のビジネスの優位性を伝えることにフォーカスしがちです。たしかに、「ほかとの違いをつくること」「かっこよさ」だった時代もあったでしょう。

しかし、性質の違う多くの人々と関係性を築こうとする際には、それだけでは不十分です。「社会への貢献」「地球環境への配慮」のように、「公共性」との関係性を語る大きな「物語」がなければ、自社のビジネスがもつ意義を理解してもらうことはできません。

クリエイティブ・ディレクターの嶋浩一郎氏の発言は、こうした時代の変化をはっきりと言い当てています。

市場における優位性を語るより、社会におけるそのブランドの役割を語るというようなサステナブルな時代になってきていると思うんです。

トップランナーと考える“私的”YouTube考(嶋 浩一郎さん)

顧客や株主のような直接的な関係者だけにとどまらず、メディアや個人をはじめ、社会を構成する多種多様な人々との関係を細やかに築く。そんな広報の役割を果たすためには、企業は公共性を担う存在であるという認識を、ひとつの原則として頭に入れておくとよいと思います。

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