広報の「切り口」って何? 「変化のとらえ方」がカギ
見出し画像

広報の「切り口」って何? 「変化のとらえ方」がカギ

Story Design house

連載「広報の現場から」
PR会社にいると「広報部を立ち上げたい」「広報人材を育ててほしい」という相談をいただくことがあります。外部のPR企業と契約するまでではないものの、広報部門の必要性を感じて社内で人材を育てたいと考える企業も少なくありません。それでは、どういう人が広報に向いているのでしょうか。本連載では、広報を必要とする企業や、これから広報の仕事をしてみたい人に向けて、広報現場で求められるスキルをStory Design houseの森が探っていきます。これまでの連載記事はこちらからお読みいただけます。

「広報の仕事をするなら、トレンドに敏感でないと!」と言われることがよくあります。この場合「トレンドに敏感」というのは、次のドラマの主演が誰かを知っていたり、TikTokをいち早く使っていたり、最新のレストランを知っていたり……という意味ではありません。

広報担当にトレンド感覚が求められるのは、いわゆる「切り口」を生み出すためにそれが必要だからです。切り口は、効果的なPR企画を打ち出すうえで重要なものとしてよく語られます。そうはいっても、切り口とはいったい何なのでしょうか? 明確に説明できる人はあまりいないかもしれません。

今回は、そんな切り口という概念について考えてみたいと思います。

画像1

森 祥子(もり・さちこ)
Story Design house株式会社 Senior PR Consultant。ベンチャー企業から大企業まで、新たな事業開発に取り組む会社の成長戦略をコミュニケーションから描く。1000人クラスの大規模イベントや、演出にこだわったプレスイベントも得意。

切り口は重要、だけどよくわからない

たとえば、企業があるサービスをリリースしようとするとき、そのサービスをどのようにアピールすれば良いか広報チームでアイデア出しをします。

ここでは、高齢者の見守りサービスを例として考えてみましょう。まず、誰をターゲットにするかが問題になります。見守られる側の高齢者に向けて「自分たちが孤独死しないためのサービス」としてサービスを打ち出すべきなのか、それとも、高齢の親を持つ人に向けて「離れて暮らす家族の状態を心配せずに過ごせるサービス」として打ち出すべきなのか。

ターゲットが変われば、準備すべきものも変わります。もし前者に向けて訴求するなら、高齢者が孤独をどの程度、どのように恐れているのか、具体的なデータを集める必要があるかもしれません。後者をターゲットとするなら、見守りサービスにどういった不安と期待があるかを知っておきたいですね。

上記の例であれば、場所という切り口もあります。たとえば、地方と都心ではニーズが違うかもしれません。効果的なPRをおこなうには、さまざまな視点から現状をとらえたうえで、最適な角度でそこに切り込んでいく必要があるのです。

──とはいえ、最初は私自身、どういうことかさっぱりわかりませんでした。初めて入ったPR会社で「切り口を考える打ち合わせ」に参加したときに「周りの人たちはいったい何を言っているんだろう……」と思ったことが記憶に残っています。

「誰に訴えかけるのか」、「どういうメディアに刺すのか」、「ユーザー像はこういう感じなんじゃないか」……こういったことが、あのころは本当によくわかりませんでした。なにがメディアの方にとってフックになるかがわからず、「これだと記事になる」という感覚のイメージもわかない。そもそも周りの人が口にする「切り口」が何なのかも見いだせない。ちんぷんかんぷんってやつですね。

情報を浴びることから、変化に気づくことへ

その後、さまざまなプロジェクトで経験を積むにつれて、広報に必要なことが徐々に見えてきました。その過程でわかったことは、切り口そのものを掴もうとするよりも、「切り口が生まれてくるような変化」に関心を持つことが大切なのです。

環境の変化は、新たな切り口の源です。環境が変わるとき、人々の暮らし方やニーズにも変化が生じているはず。そこに、広報のヒントがあるのです。

たとえば、最近の生活のなかで以下のような気づきを得ませんでしたか?

環境の変化の一例
・いろいろなメディアに「DX」というキーワードが増えてきた
・コスメカウンターに男性客が増え、男性スタッフも働くようになった
・一年前は並んでなかったお店に、急に行列ができるようになった
・サステナブル部署を新設する上場企業のニュースが立て続けに出た

このような変化は、ちょっとずつ起こっていくものです。情報過多の時代である現代において、些細な変化を敏感に察知することは簡単ではありません。しかし、だからこそ、その変化に気づくことの重要性が高まっているのでしょう。

広報としてメディアに企画を提案する際に求められるのも、「新しい情報を知っている」という意味のトレンド感覚から、「情報の変化に気づく」という意味のトレンド感覚、つまり変化=切り口を見出す観察力へと変わってきているのを感じます。

変化に気づくことから、変化の構造を理解することへ

変化に気づけるようになった人が次にぶつかる壁は、「変化には気づいているけれど、それをどのようにPRにつなげるべきかわからない」というものだと思います。

ここまできたら、次のステップは変化の構造を理解することです。「風が吹けば桶屋が儲かる」ということわざがありますが、小さな変化と変化のあいだに関連性を見つけることで、世の中の構造が少しずつ見えてきます。

たとえば「最近、Apple Watchが流行っているな」と気づいたら、なぜその変化が生じているのかを考えてみましょう。LINEの通知をすぐに見る人が増えたのであればチャットツールの普及、Suica代わりに使う人が増えたのならキャッシュレス決済の浸透、歩数計として使う人が増えたのなら健康志向とのつながりが見いだせるはずです。

メディアの変化と現実社会の変化のあいだにも、つながりがあります。例えば、ビジネス誌やファッション誌・コスメ誌、ライフスタイル誌などさまざまなジャンルの雑誌の最新号を眺めていると、特定の週に、ジャニーズや有名タレントが表紙をジャックすることに気づきます。それはなぜでしょうか? 新しいドラマが始まったり、映画が公開されたりするタイミングだからです。

あるいは、特定のキーワードをめぐる変化からも構造が見えてくることがあります。たとえば「卵子凍結」について、語られ方が変化したり、これまで取り上げてこなかったメディアがその話題を取り上げはじめたりしていることに気づきます。この変化は、ほかのどのような変化と、どのような構造でつながっているのでしょうか?ぜひ、自分なりの仮説を立ててみてください。

ケース:アンダーリバー

最後に、具体的な切り口の事例として、大豊建設株式会社の「アンダー・リバー」をご紹介しましょう。私たちがPRをサポートしたプロジェクトでもあります。

アンダー・リバーは、東京の地下に広がる巨大なトンネルのこと。豪雨の際に河川から雨水を取り込み、水害から都市を守る役割を果たしています。

スクリーンショット 2021-11-16 13.46.35

アンダー・リバー

ストレートに考えれば、安全性や防災・減災を訴求することになりそうですが、Webサイトを見ていただけると、地下深くに眠る「幻の川」として、その神秘的なビジュアルの魅力を前面に押し出していることがおわかりかと思います。

この広報戦略の切り口は、「近年、防災や減災に関する情報は、さまざまな分野で数多く見られるようになった」という変化と、「工場萌えや廃墟ブームからもわかるように、無機質で巨大な構造物のビジュアルを愛好する人がマスメディアでも注目されるようになってきた」という変化を組み合せて生まれました。

これをもう少しビジネス的な言い方でまとめると、「認知を獲得するために、安全性・防災・減災の訴求ではなく、ビジュアル的な魅力の訴求に変えよう」という切り口と、「ビジュアル的な魅力の訴求をするとしたら、工場・廃墟好きの人に刺さる表現がよいのではないか」という切り口の組み合わせでつくられているということです。

このPRの例からもわかるように、ひとつひとつの情報の裏には、何かしらの構造があるはずです。普段の生活のなかでそういった構造を理解できるようになれば、広報の仕事をするうえでも個別の情報を深く理解でき、そのあとの情報加工もしやすくなるのだろうと思っています。

まずは何らかの変化に気づき、その変化が起こっている要因を想像してみる。「あれかな、これかな」と思いを巡らせるうちに、「もしかしたら、こうしたら、こうなるかも」とイメージできるようになる。そのとき、インプットしている情報の量が多ければ、掛け合わせによってイメージの幅が広がっていきます。インプットは多いほうが良いというのは、何をするうえでも言えることでしょう。

──ただし、繰り返しになりますが、情報をただ浴びるだけではなく、構造を理解することが大切です。これを意識しておくことで、切り口をつくれるようになり、アウトプットの質が向上していくと思います。

ありがとうございます!
Story Design house
Story Design house株式会社の公式noteです。「意志あるところに道をつくる」をミッションとして、企業や団体のコミュニケーション戦略パートナーとして活動しています。 https://www.sd-h.jp/