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地方テレビ局アナウンサー出身のPRパーソンに聞く、地域で求められる広報・ブランディングの方法論

政府が2014年に「地方創生」を掲げてから10年。各地域のプレイヤーが地元の魅力を再発見し、新しい事業を生み出す時代になりました。

広報・ブランディングの領域においても、「地域の動きを情報発信の観点でサポート」してほしいというニーズが高まっています。しかし、都市部のクライアントを中心とするPRパーソンにとって、ローカルの文脈に合わせたコミュニケーション設計のスキルや経験はなかなか得難いものではないでしょうか?

そこで本記事では、地域における広報・ブランディングの手法や考え方について、これまで大小さまざまな地方テレビ局のアナウンサー・ディレクターとしてキャリアを積み、ニュースや情報番組をつくってきたStory Design house(以下、SDh)の久保亜希子に聞きました。


久保亜希子(くぼ・あきこ)
PRプランナー。元・北陸朝日放送アナウンサー。セイアカデミー局アナ受験対策コース講師。企画から取材、撮影、編集、ディレクター業務も担うアナウンサーとして17年間放送業界に従事した後、スタートアップ企業の広報を経験。2023年にStory Design house入社。メディア視点を元とするバランス感覚と生放送の現場で培った対応力、柔軟なコミュニケーション能力を強みとする。

アナウンサーはニュースを読むだけじゃない

──最初に、ご自身のキャリアについて簡単に教えてください。

私は新卒のとき、地元の金沢ケーブルテレビネット株式会社(現金沢ケーブル株式会社)にアナウンサーとして入社しました。

仕事内容は本当に多岐にわたります。ニュースを読むことはもちろん、自分でネタを探して企画書をつくり、アポを取る。カメラと三脚を担いで現地まで行き、取材・インタビューをする。会社に戻って映像を編集する。特に新人の頃は、これらを全部ひとりでやることが多かったです。アナウンサーといっても、記者やディレクター、カメラマンなど、いろいろな仕事を兼ねているイメージですね。

それからフリーになって、より広域で放送されるサンテレビやABCテレビでニュースや情報番組、FM802やFM COCOLOといったラジオ局でもニュースを中心に担当しました。もともと後進の育成に強い関心があり、所属事務所が運営するアナウンススクールで講師を始めたのもこの頃です。そのあと再び地元に戻って、北陸朝日放送に入社し、地域密着の情報番組や報道番組にアナウンサーとしてもディレクターとしても携わりました。

──PRの世界にはどうして?

メディアは様々なプレスリリースを受け取ってネタを選定し、取材をする立場ですが、そのリリースができるまでの工程を知って一連の流れを知ることで、視野を広げたいと思ったんです。もともと物事の裏側に興味があるんですよね。劇場なら客席からは見えないステージ裏や楽屋とか、スポーツなら活躍の裏にある選手の思いとか。それなら企業はプレスリリースを出すとき、なにをどんなふうに発信したいと考えているんだろうか?って。

そこで、ミッションに共鳴したスタートアップの広報に転職しました。とても有難い経験をさせてもらうなかで、さらにいろいろな業種や規模のPRに携わりたいと考え、2023年にSDhに入社しました。

地元メディアの現場に刺さる3つのヒント

──PRの立場になってみて、地域のメディアをどう捉えているか。どのようなアプローチをすればいいか。

そもそも、私がメディアの現場で働いていたとき、地元の会社の広報職の方とはお付き合いがあっても、いわゆるPR会社と一緒に仕事をすることはほとんどありませんでした。地域ではPR会社のイメージがわかないところもかなりあります。理解されなかったり、広告代理店と間違われたりもありますね。最初にお話したように、ローカル局は自分たちでなんでもやることが多いので、大きいメディアであればPRパーソンと協働しているような領域も自分でやっちゃうんですよね

こうした働き方の違いを踏まえたうえで、アプローチはあれもこれもと提案を詰め込むのではなく、シンプルがいいと思います。先ほどお話ししたように、地方局の現場のディレクターは自分でネタを探したり考えたりするのが好きですし、それが仕事の面白さだと考えています。テレビで映える画やポイントがひとつあればいいのです。逆に、切り口から落とし所の展開まであまりに緻密な企画を提案すると、かえって窮屈な印象を与えるかもしれません。

金沢のテレビ局で働いていたとき、こんなケースがありました。地域のとあるホテルからプレスリリースが送られてきたのですが、番組で使える画像素材やコピーがきれいに整理されたメディアキットが添付されていたんです。おかげで取材のイメージがすぐに湧きました。シンプルで的確なリリースと、豊富なビジュアル素材。これさえあれば、あとは自分たちでどう料理しようか考えられます。例えば、取材当日が雨であっても、晴れの日の素材があれば安心ですよね。あとから広報の方に話を聞くと、PR会社のサポートを受けていたそうです。

このホテルは、現場のアナウンサーやディレクターとのコミュニケーションも巧みでした。「実はこんなこと考えているんですけど」、「まだ公式には発表していませんが、いついつにこのような企画を準備していまして」など、目先のオンエアだけではなくて、裏話や先々のネタについてもお話してくださる。こういった話題があると、番組側でも準備しておこうかなという気持ちになりますよね

ローカル局の場合、このような現場でのやり取りは非常に重要です。なぜなら、私もそうであったように、アナウンサーが自ら企画を立案し、現場で取材する、というケースも多いからです。現場のコミュニケーションから番組のアイデアが生まれているという意識が必要だと思います。

こうした現場コミュニケーションの重視は、言い換えれば、結局は信頼とネットワークが重要という話でもあります。メディアだけではなく、地域のプレイヤーは都会以上に緊密につながっているので、広報・ブランディングにおいては、ひとつひとつのご縁を大切にしたいですね。

局同士の連携とデジタル対応も課題

──地方局の現場について、リアリティのあるお話を聞くことができました。では、経営陣を含めたメディア全体の状況についても教えていただけますか。

そうですね。現場から経営へと目線を移せば、また状況が違うと思います。私自身が経営をしていたわけではないという前提でのコメントですが、少なくとも現状として、多くのローカル局が厳しい事業環境に置かれていることは確かです。視聴者の母数である地域の人口が減少していることもさることながら、YouTubeやTikTokなど、テレビ以外の映像プラットフォームの存在感も危機感につながっています。

こうした状況を背景に、インターネット上での配信やコンテンツづくり、ローカル局同士の連携など、新しい取り組みにチャレンジしようという機運があります。私が在籍していた頃、「WAKUを超えろ」をスローガンに、テレビの枠も系列局も垣根を超えた共同キャンペーンが始まりました。各局が同じテーマに挑戦したり、お互いの番組に出演し合ったりといった取り組みを展開していたのです。

いまローカル局のマネジメント層の多くは、テレビの黄金時代をつくってきた方々です。「メディア状況の変化のなかで、地方局はどのようにあるべきか?」、そんな問いに日々向き合っています。それでもSNSやYouTubeなどとの付き合い方には、「これだ!」という答えが出ていないように思います。番組の企画やアイデアだけではなく、デジタルのマーケティングや数字の分析にも課題がありそうです。こうした経営課題にフィットするようなプランニングには可能性があるのではないでしょうか。

地域のコミュニケーションの多面性にアプローチ

──さらに話題を広げたいと思います。テレビだけではなく、ほかのメディアへのアプローチも含めて、地域での広報・ブランディング全般の手法についてはどのように考えるとよいでしょうか。

テレビや新聞といったいわゆるマスメディアだけではなく、自治体などから各家庭に届けられる広報誌や地域情報が掲載されたフリーペーパー、一般的にはあまり知られていなくとも地域では存在感のあるSNSアカウントなど、多面的にメディアを捉えることが大切だと思います。

例えば、都市部のデベロッパーが地域のターミナル駅に大規模商業施設をつくったとしましょう。最初はみんな都会のような施設ができたと盛り上がり、目新しいブランドに心躍り、地元メディアもたくさん訪れます。しかし、いつの間にか一過性の話題に終わってしまい、数年後には閑古鳥が鳴いている。悲しいことですが、そんなケースは少なくありません。

要因のひとつとして、メディアやコミュニケーションの多面性を意識しきれていないことが挙げられます。地域でのコミュニケーションや、人と人とのネットワークにブランドとその「ストーリー」が入り込めていなければ、新規性のなくなった段階で人々の関心から外れてしまうのです

こうした課題を解決するためにも、マスメディアはもちろん、地域の商店街から自治体まで、さまざまな人のつながり、コミュニティで広がる口コミを幅広くコミュニケーションとして捉え、大切に扱う広報・ブランディングが必要だと思います。

──最後に、久保さん自身がSDhで取り組みたい仕事について教えてください。
SDhは、地域の企業や自治体のブランディングに強みをもつ会社です。こうした領域において、私も専門性を発揮していきたいと思っています。地域のなかには、価値はあるけれどもその魅力に自分たちが気づいていなかったり、面白い素材はあるのにその見せ方で悩んでいたりといった企業がたくさんあります。地元の生の魅力を地域内外に広げる、そんなブランディングに取り組んでいきたいですね。

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