東京東側エリアはどう変わる? 「大人起業家」と生み出す新規事業のダイナミズム(三井不動産 ベンチャー共創事業部・塩畑友悠さん)
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東京東側エリアはどう変わる? 「大人起業家」と生み出す新規事業のダイナミズム(三井不動産 ベンチャー共創事業部・塩畑友悠さん)

Story Design house

いま、東京東側エリアで新しい動きが生まれている。日本橋を中心に熱量の高いスタートアップが集積し、コミュニティが形成されつつあるのだ。
このムーブメントの立役者といえるのが、私たちStory Design houseもPRをサポートしている三井不動産のベンチャー共創事業部、通称「31VENTURES(サンイチベンチャーズ)」である。同事業部は東側エリアにスタートアップのための拠点「startup workspace THE E.A.S.T.」を作り、起業家たちと深く関わりながら事業の成長をサポートし、協業によるイノベーションを目指している。
大企業とスタートアップが交わりはじめた東京の東側は、どのように変わっていくのか? 今回は31VENTURESの塩畑友悠さんに、東側エリアのいまをお聞きするとともに、大企業の一員でありながら日々起業家たちと接する環境で、塩畑さんが思い描く未来について語っていただいた。

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塩畑友悠さん / 三井不動産 ベンチャー共創事業部 主事
慶應義塾大学SFC卒業後、三井不動産入社。オフィスビルにおけるテナントとの新規サービス開発、社内新規事業であるシェアオフィス「ワークスタイリング」の立上げ等を経験。
31VENTURESにおいてスタートアップとの協業による既存事業強化および新規事業開発に取り組みつつ「E.A.S.T.構想」を掲げ日本橋を中心としたスタートアップエコシステムの構築を推進中。

大企業とスタートアップの関係が変わってきた

——最初に、塩畑さんが所属されている31VENTURESのことや、現在取り組まれている「E.A.S.T.構想」がどのようなものか、簡単に教えてください。

31VENTURESは、三井不動産とスタートアップの協業と、新規事業の創出を目指して、2014年頃に始動したチームです。

出資やコミュニティづくりなど、複数の角度からスタートアップとの協業に取り組んでいます。私が関わる「E.A.S.T.構想」は、日本橋を中心とする東京東側サイドをスタートアップの一大集積地にしようというプロジェクトです。

2018年に立ち上げたE.A.S.T.構想の看板となる施策が、2021年から運営しているスタートアップ専用ワークスペース「startup workspace THE E.A.S.T.」です。築51年のビルをリノベーションして、一棟まるごとスタートアップ仕様に作り変えた「THE E.A.S.T. 日本橋富沢町」など、計6か所の拠点を設けています。

THE E.A.S.T. 日本橋富沢町

私は「THE E.A.S.T. 日本橋富沢町」に常駐し、そこにオフィスを構える起業家の方々や、ご紹介で知り合ったスタートアップの方々とお話しながら、事業の方向性を一緒に考えたり、販路の開拓をサポートしたりしています。

——三井不動産が、スタートアップをサポートする意義はどういったところにあるのでしょうか。

三井不動産の本業はその名のとおり不動産業で、ビルや商業施設、ホテル、リゾート施設などさまざまな事業を手掛けています。

しかし、最近はビジネス環境の変化がとても速く、これまでと同じではやっていけません。既存事業強化と新規事業開発は私たちにとっても必須の課題となりました。その課題に挑むにあたり、私たちはスタートアップの優れた技術やサービスを積極的に取り入れていこうと考えているのです。

その一環としてスタートアップの方々の集う拠点を作り、その爆発的成長を狙う環境づくりを意識しています。三井不動産のネットワークをいかして、大企業側との共創や大企業内からのイノベーションも促していきたいという思いがあります。

——大企業の側で、オープンイノベーションの機運が高まっているのですね。

そうですね。社会全体のIT化が進むなかで、大企業がこれまでよりもスタートアップのアイディアを受け入れるようになってきました。私たちの会社のように「本業をバリューアップしなければ」、「新規事業を作らなければ」という課題はどこにもあります。そこでスタートアップのサービスを使ったり、協業したりといった発想が一般的になってきたのです。

これをスタートアップ側から見れば、大企業と面談して自分たちのサービスを直接売り込み、一緒にビジネスするチャンスが増えたことになります。僕たちは両者の連携をアシストして、協業をさらに促進しようとしているというわけです。

東側エリアで「大人たち」の起業が始まった

——スタートアップと大企業との協業の場を作るうえで、東側エリアを選んだ理由はありますか。

私たちが拠点を設けている東側エリアは、古くからの街並みが残る情緒ある場所です。ただ、ここ数年のうちに現代的でおしゃれな飲食店ができたり、クリエイターが集まってきたりと、少しずつ新しい動きが見られるようになりました。

次第にこのエリアは「ほどよい自分たちの秘密基地」のような雰囲気を持つようになり、私たちが拠点を作る前から、感度の高い起業家たちに注目される場所となっていました。

加えて日本橋周辺には、スタートアップがオフィスを構えやすい環境が整っています。日本橋の中心地、日本橋駅とか三越前駅の周辺には大企業が集まるビルが多いのですが、そこから少し歩いて人形町や東日本橋あたりに行けば築年数が経ったビルも多く、リノベーションしたビルでも比較的安く借りることができます。

賃料が安く、交通利便性もよく、なにより大企業がいるエリアにとても近い。私たちとしては、このあたりのエリアにスタートアップが集積すれば大企業との協業も進むのではないかという期待がありました。

——スタートアップといえば渋谷あたりのイメージが強いですよね。日本橋周辺となるとかなり違った印象がありました。

たしかに東側エリアの雰囲気や文化は、渋谷などの西側エリアとはかなり違いますね。集まっている起業家の方々の空気感も違う気がします。ITベンチャー草創期の激しく勢いのあるイメージとは違って、冷静で堅実な方が多い印象です。

西側エリアと共通しているところもあって、それはオフィスの近くに住んでいる方が多いところです。人形町や東日本橋から隅田川を渡って両国あたりに行くと住みやすいエリアがたくさんあり、職住近接が叶う環境が整っています。そういった意味でも、起業家がオフィスを構えやすい地域かなと。

私たちは、この地域の環境やずっと受け継がれてきたものと共存していきながら起業文化を育てていきたいと思っています。

——実際、東側エリアでは大企業とスタートアップの協業が増えてきているという手応えはありますか?

そうですね。たとえば、日本橋エリアではないのですが、思入れの深い事例として「THE E.A.S.T. 霞が関」に入居されているテックタッチ株式会社があります。テックタッチさんは、大企業のDXを強力にアシストするサービスを展開されていて、トヨタや三菱UFJ銀行など誰もが知る有名企業ともお取引されています。

最近は大企業でも社内業務のデジタル化が進んで、決済システムや経費処理システムなどが刷新されることも多いのですが、なかなか使いこなせない社員も出てきます。すると、分厚いマニュアルの作成や問い合わせ対応に多くの労務コストが費やされ、デジタル化したのに効率化は進まないという事態に陥ることは少なくありません。

そこで活躍するのがテックタッチさんのサービスです。導入すると、どんなWebシステムでも画面上に操作ガイドが表示され、ガイドに従って各社員が簡単に操作を進められるようになるのです。マニュアル作成や問い合わせ対応の負担が減り、社員たちは本当に必要な業務に集中できます。

——大企業に近いエリアで展開するのにぴったりのサービス内容ですね。

まさにそのとおりです。ただ、大企業への導入には工夫も必要でした。単純に私たちが紹介するだけでは、なかなか受け入れてもらえないのです。

そこでテックタッチさんの場合、まず私が自分のアカウントを発行してもらい、実際にサービスを使ってみました。そして、実際の操作感にもとづいてマニュアルを作成し、そのマニュアルを持って大企業に足を運びました。

もはやテックタッチさんの営業みたいですね(笑)。ただ、こうした取り組みには明らかに効果があります。たしかに大企業はスタートアップにも柔軟に対応するようになりましたが、やはり敷居の高さはありますから。

——スタートアップと大企業の距離が近づきつつあるものの、実際の協業にはいろいろハードルがあるということでしょうか。

企業規模が違えば、ビジネスを進めるうえでの時間感覚も異なりますからね。スタートアップはスピード感を求めますが、大企業はどうしても時間がかかります。その背景にある事情をお互いが理解する必要があると思います。

そこで私たちは、大企業側の論理をスタートアップに伝え、スタートアップ側の論理を大企業に伝わりやすいように変換しているというわけです。

例えば、大企業での経験を持たないメンバーが営業に行くときに、自分たちのプロダクトの良さを伝えるだけでなく、大企業が受け入れやすい順序で話すようにアドバイスすることもあります。「大企業側では何が課題で、どのような結果を求めていて、そこに自分たちのプロダクトはどう貢献できるのか」、それが伝わりやすいような話し方を提案するのです。

大企業の内情を知り、なおかつ毎日スタートアップと接している私たちだからこそできる、細やかなサポートを心がけています。

「大人起業家」を支援する

——E.A.S.T.構想のターゲットである「大人起業家」についても教えてください。

「大人起業家」といっても、単純に年齢で区切っているわけではありません。「自分のこれまでの経験にもとづいた情熱を持ち、かつ、その経験をもとに冷静な判断ができる起業家」をイメージしています。

例えば、不動産業界で仕事をしてきて、業界内の課題に気がついた。その課題を解決するために起業し、社会をよくするサービスをつくっていこうという情熱を抱いている。熱い心を持ちながらも、経験にもとづいて地に足のついた判断ができる。そんな大人起業家の方々と共に事業を進めていきたいと思っています。

——なるほど、起業に至る背景も重要なポイントになるのですね。

ええ。「THE E.A.S.T.」では入居前に起業家の方と面談をするのですが、そのときに事業の内容だけではなく、起業に至るまでのストーリーもお聞きします。いま入居していただいているのは、事業の中身と背景の両方に共感し、尊敬できるスタートアップばかりです。

——先ほど伺ったテックタッチさんをはじめ、おもしろいスタートアップが入居していそうですね。

そうなんです。株式会社Laspyも素晴らしいですよ。Laspyさんは、非常食などの災害備蓄のプラットフォーマーで、企業の災害備蓄のアウトソーシングを引き受けています。サービスに登録すると、オフィスなどの拠点からほど近い倉庫に必要なものが常に備蓄され、有事の際にすばやく必要なものを届けてもらえる仕組みです。

大きなオフィスビルなら備蓄品を置くスペースも作りやすいのですが、小さなビルではなかなかそうはいきません。それに、大きなビルの備蓄品だけで街の人をすべて救うのは不可能ですよね。Laspyさんのようなサービスがあれば多くの人に物資が届き、地域としての防災力が上がります。

Laspy代表取締役社長の藪原拓人さんは、もともとは証券会社のご出身ですが、コロナ禍で最初の緊急事態宣言の際に、街から食糧や衛生用品が消えたのを目の当たりにして、地域コミュニティにいつも備蓄がある状態を作りたいとの思いから起業されたそうなんです。

デベロッパーとして「もっと街に還元しなければいけない」という責任がある私たちは、藪原さんの思いに深く共感しました。Laspyさんをサポートすることで、結果的に地域に貢献できたら嬉しいですね。

——そんな「大人起業家」の支援と、一般的な起業家の支援とでは異なる点はありますか?

アドバイスの方向性はかなり変わってくると思います。たとえば、これから起業したいと思っている「大人起業家」の方には、現在の職場も大切にするようにお伝えすることが多いです。まずは現職のサイドプロジェクトとして活動を始めるほうがうまくいきやすい。会社を興すことが目的ではなく、あくまで課題解決が目的だと考えれば、今の会社でやれることがあるかもしれません。複数の選択肢を用意しておくことが大事だと思っています。

すでに起業されている方の支援は、それほど普通の起業家に対するものと変わりません。ただ、メンタリング的なものよりも、実務的な支援が多いところは特徴かもしれませんね。日々、起業家の方とお話をして課題感などを伺い、「そういうことならこの会社のこの方と話したらいいですよ」と馴染みの担当者を紹介することもよくあります。

入居するスタートアップと、三井不動産の事業とで直接連携することもあります。株式会社ナレッジ・マーチャントワークスが提供する「はたLuck®」という店舗の業務改善サービスは、弊社が運営する商業施設「ららぽーと」にも導入させていただいています。こうした場合は、ららぽーと側にもしっかり働きかけて連携をフォローします。日頃から話し合いを重ね、ほかのスタートアップもアサインできないか考え、さらなる協業を目指してチャレンジし続ける日々です。

コロナ禍で再確認した「リアルな場所」の価値

——コロナ禍では外出自粛要請を受けてリアルオフィスの縮小に動く企業も見られました。THE E.A.S.T.ではどうでしたか? 入居するスタートアップの方々はどのように考えておられるのか気になるなと。

起業家の方々からは「スタートアップだからこそリアルなオフィスに集まる必要がある」という言葉をよく耳にします。とりわけスタートアップでは次々に新しいメンバーがジョインするなど人の出入りが激しく、企業文化の醸成や維持が難しいですよね。そこで代表が毎日出社して自分たちの方向性を発信し、その日オフィスにいるメンバーたちがその空気感を共有する。

そうするなかで、少しずつ企業文化が作られていきます。「ここが私たちの居場所だ」、「会社はここから始まったんだな」というように。創業間もない企業にとって、オフィスは自分たちのアイデンティティを保つための場所でもあるわけですね。

そういったお話を起業家の方々から聞いていて、人には本来「集まりたい」という欲求があると気づかされました。これは外出自粛期間を経たからこそわかったことかもしれません。

——外出自粛の経験が、リアルな場所の価値を再確認させた部分もあるのですね。

そうですね。リアルなオフィスに対するニーズの核心部分が、はっきりと浮かび上がってきたように思います。だから、そのニーズに応えるオフィスを作れば、必ず借りてくれる企業はあるという自信がありました。

例えば、Webデザインやエンジニアリングを手掛けるファンタラクティブ株式会社は、コロナ前からリモートワークを積極的に取り入れている企業なのですが、THE E.A.S.T.の理念に共感していただき、企業文化を生み出すために渋谷から日本橋富沢町に移転してきてくださいました。

先ほどもお話ししたナレッジ・マーチャントワークスさんは、お台場から日本橋人形町に移転した結果、社員の出社率が大幅に向上したそうです。自分たちの文化を育てていけるリアルな居場所ができたと、非常に好評いただいています。

——THE E.A.S.T.には企業文化を育みやすい環境があるのですね。具体的な機能の面では、スタートアップのニーズにどのように応えているのでしょうか。

「THE E.A.S.T. 日本橋富沢町」では、カフェやコワーキングスペースなど、どの企業も使える共有空間を設けたのもその一例ですね。そこで毎日いろいろな企業の方どうしが顔を合わせていますし、カフェは一般の方にも解放しているので、地域の方々が利用されることもあります。

そのような場で、特別な自己紹介や名刺交換まではしなくても、自社のTシャツを着ている姿を外部の人に見られるというだけでアイデンティティが育つものです。また自社のメンバーとも、オフィスとは違うひらかれた空間で顔を合わせることで、コミュニケーションの幅や奥行きが広がりますよね。

今はオンラインが中心になっていますが、今後はこの共有スペースを活用したイベントにも力を入れていきたいと思っています。

事業が生まれるエコシステムを作り、その一員になりたい

——最後に、今後の東側エリアはどう発展していくのか、あるいはどうなればより刺激的なエリアになりそうか、塩畑さんが描かれている未来の展望を教えてください。

日本橋の中央通りのあたりにある大企業のなかから起業する人が出てきて、東日本橋や人形町、茅場町、八丁堀あたりにオフィスを構える。そして、すぐ近くにあるという利点を活かして大企業との協業を進めながら成長し、事業が拡大したら大企業エリアにオフィスを移転していく。そしてまた大企業から起業家が生まれて……という循環を生み出したいと思っています。

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「THE E.A.S.T.」が位置する東京東側エリア 

スタートアップの拠点である「THE E.A.S.T.」は、この大きな目標に向かうプロセスの一つとして運営しています。大企業の事情を知る者の一人としてスタートアップの成長を支援するのはもちろん、スタートアップの方々が持つ起業家マインドを大企業の側にも伝えて、大企業のなかからイノベーターが生まれるような仕組みをつくりたい。

ただ、自分自身は「僕も起業家になりたい」、「新しい事業を生み出したい」という思いのほうが強いかもしれません(笑)。スタートアップの方々と毎日接していると、自分も起業して、日頃感じている課題を解決すべきだと思えてくるのです。だから、私が起業するときに取り組みやすい環境づくりをしたいと思っています。

Story Design houseでは「意志あるところに道をつくる」をミッションとして、さまざまな企業のPR活動を支援しています。是非、ウェブサイトもご覧ください。お問い合わせはこちらから。

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Story Design house株式会社の公式noteです。「意志あるところに道をつくる」をミッションとして、企業や団体のコミュニケーション戦略パートナーとして活動しています。 https://www.sd-h.jp/