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「音声がインフラになる」時代のPR戦略 (Voicy・浅井淳さん)【後編】

人と社会のコミュニケーションのありかたを探り、さまざまなPRパーソンの道しるべとなる記事を届ける「PR Compass」。今回は音声メディアが企業のPRに果たす役割について、株式会社Voicy・浅井淳さんにインタビューしました。

Voicyは10月に法人向けのサービスとして「Voicy Biz」をローンチしました。

各業界を代表する専門家やミュージシャン、インフルエンサーなどが良質なコンテンツを発信する音声メディアとして、ビジネスパーソンを中心に根強い人気を得てきたVoicy。なぜいま、法人向けサービスをリリースしたのでしょうか。後編では、IoT時代に「音声がインフラとなる」未来で、PRがどう変化するのかについて伺いました。

※前編はこちら

音声ネイティヴ世代がやってくる

——後編では、Voicyの未来像をお聞かせいただきたいと思います。

現在は音声メディアの開発・運営が主ですが、これは皮切りとして捉えていて、ゆくゆくは社会のインフラになりたいというビジョンがあります。

マネタイズを考えたとき「音声ならではの価値」をいかに生み出していくのか。たとえば、音声を聴いている瞬間の広告はどうすれば快適になるのか、もしかしたら既存のCMと全く違った提示の仕方があるかもしれません。また、現在Voicyにはコンテンツへの課金システムはありませんが、課金機能を実装するなら、音声メディアにおいて気持ち良く支援していただける方法はなにか。そうやってマネタイズしながら、音声を社会のインフラにしていきたいと考えています。

——「インフラ」というとき、具体的にどのような可能性があるのでしょうか。

IoT化が進むことで、マイクやスピーカーが備えられたテーブルや冷蔵庫などの、いわゆる「スマート家電」が一般的になります。たとえば「明日の天気は?」と呟けば、ネットに繋がった机がそのままスマートスピーカーとして機能して音声が出てくるようになるでしょう。

それを都市環境に適用してみましょう。道に迷ったとき、いまはスマホで地図アプリを開いて確認しますよね。しかし、音声インフラが発達したスマートシティにおいては「道に迷った」と声に出せば、Air Podsなどのスマートイヤフォンや道にある電柱が喋りかけて教えてくれるかもしれません。

——これまではデバイスとのコミュニケーションは、テキストベースで行われていました。しかし、未来においては音声によるコミュニケーションが主流になっていく可能性があるのですね。

音声による検索が可能になったのは比較的最近のことですが、未来の世代にとってはそれが当たり前になると思います。たとえば私の5歳の子どもは、アレクサを通して「機関車トーマス」とお喋りしています。現在アメリカでは4人に1人がスマートスピーカーを持っていますが、日本での普及率はいまだ10%未満です。しかし、生まれたときからデバイス=非人間と声でコミュニケーションすることが当たり前になる「音声ネイティヴ」世代の登場を考えれば、日本でも音声コミュニケーションが普及していくのではないかと予測しています。

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Voicyが目指す「音声のインフラ」

——考えてみれば、人は文字より前に声を通してコミュニケーションをとりますね。

Voicyは公共的なインフラにもなりたいと考えています。たとえば、90歳をこえた高齢者の方が海外旅行に行くとします。初めての外国で空港にひとり降り立ったとき、道案内や訪問する町の情報がすべてスマートイヤフォンから流れてくれば便利ですよね。パソコンやスマホでの検索行為は、高齢者にとってハードルが高い。しかし、音による情報のインプットとアウトプットが容易になれば、情報取得へのハードルは一段と低くなります。子ども、高齢者、障がいを持たれている方にも優しいツールになり得るはずです。

——Voicyの大きなビジョンが「社会の音声インフラになること」だとすれば、既存の音声SNSやプラットフォームとは異なるということでしょうか? 

私たちにとって音声メディアであることはゴールではなく、良質な音声文化を作っていくための手段のひとつです。

コンテンツに関していえば、Voicyでお話いただいているパーソナリティは必ずしもお喋りのプロではありませんが、各分野のトップランナーの方ばかりです。ビジネスの専門家やミュージシャン、インフルエンサーなどその分野の第一人者の方々がチャンネルを持っています。そこが他サービスのコンテンツと違う魅力に繋がっているのではないかと思います。

日本では、まだまだ音声コンテンツを聴く文化は立ち上がる最中です。この文化を育て、立ち上げるためには、「どれを聴いても面白い」という質を担保したプラットフォームである必要があると考え、質を重視したコンテンツを集める方針で運営しています。声によって文化を創造するというビジョンから、質を重視したコンテンツを集める方針で運営しています。

もうひとつ、音声のインフラを目指してこだわっていることに「音声による体験のデザイン」があります。VoicyにはVUI / VUXデザイナーという職種があります。VUIはボイス・ユーザーインターフェース、VUXはボイス・ユーザーエクスペリエンスのことです。前者はユーザーの音声インプットに対して、デバイスやプロダクトがどのような反応を返すかという、インタラクションのことを指します。後者はより広く「音声による体験」をデザインするためのコミュニケーションのシナリオづくりです。こういった職種では、「Voice(声)」を介してユーザーとコミュニケーションをとり、生活を豊かにする体験づくりを大切にしています。

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ライフフィットメディアが「好き」を生む

——音声がインフラとなった社会では、企業のPR活動はどのように変化するでしょうか?

音声での情報発信が聴かれるシーンが、消費者の生活により密着したものになると思います。Voicyは「ライフフィットメディア」を目指しています。デジタルメディアやSNSでの情報収集が当たり前になっている一方、年々増える情報流通量の多さゆえに、可処分時間の奪い合いが起こっています。音声の場合は、モニターレスで人間の動作を止めずに、情報を届けることができます。

音声コンテンツは、接触時間が長くなる点も重要です。ドライヤーで髪を乾かしながら、毎朝ランニングしながらなど、生活のどんなタイミングもタッチポイントになります。「ザイオンス効果」というのですが、接触時間が長くなると、対象を好きになりやすいという心理学的な裏付けもあります。私たちが会社や学校で好きなひとは、たしかに「よく会うひと」ですよね(笑)。

——PRにおいて大切なのは「好き」の関係性を作ることです。ある瞬間に爆発的に話題になり、人々の印象に残るといった形のPRが注目されがちですが、音声はひとりひとりと深い「好き」の関係性を作ることに向いているのですね。

これまでは、その場でクリックさせてその場で売り上げに繋げるといった、即時的なコンバージョンを求める方法がWebマーケティングでは主流でした。これからは、より生活に密着した状態で、好感度を持ってもらう情報発信が重要になってくると思います。個人個人の心に浸透していって、企業がその人にとって良いイメージを保ち続けることです。

——採用PRの文脈だとわかりやすいかもしれませんね。

そうですね。転職あるいは新卒での就職活動の際に、企業から音声情報を受け取っている立場だとしたら、好きな会社の入社試験を受けてみたいと思うかもしれません。そういうタイミングで想起してもらい、選択肢に入ってくることを生み出すツールとして音声PRは重要になってくると思います。

——そうした音声コンテンツの特性に加え、今後のIoT化に伴う音声インフラの変化によってPRがどう変わるかという点が重要だと。

はい。スマート家電の普及、スマートシティの整備などによって今後数年で音声コミュニケーションのあり方は大きく変化していくでしょう。そうして音声が「インフラ」になったとき、PRにかぎらず、マーケティングや広告、あるいは経営も含め、あらゆる企業活動が変化していくと考えています。そのときにはVoicyがその一端を担えるようこれからも挑戦を続け成長していきますので、ぜひ応援していただけたら嬉しいです。

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浅井淳さん
マーケティングリサーチ会社のプレイングマネージャーを経て、2019年6月Voicyに入社。ビジネスディべロップメント。営業の最前線で「声のインフラ」の実現を目指して日々奮闘中。

(聞き手、編集:原光樹 構成:原子耕)

Story Design houseでは「意志あるところに道をつくる」をミッションとして、さまざまな企業のPR活動を支援しています。是非、ウェブサイトもご覧ください。
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