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トヨタ社長のオンライン会見にみる「伝える」ための3つのポイント

Story Design houseの森です。

世間はコロナの影響をうけるなかで、各社が2020年3月期の決算会見を行なっています。どういった発信をしていくのか気になっていて、私も様々な会社の決算会見をめぐっていました。
そんななかでも、私が楽しみにしていたのが今週の火曜、5月12日に行われた日本No1企業であるトヨタの決算会見です。

とりわけ、豊田章男社長が何を言うのかを期待していました。
章男社長の本を読んで以来、人柄の魅力に惹かれていたからです。

章男さんは社長就任後から、大規模リコール、リーマンショック、東日本大震災など幾多の困難を乗り越えています。そんな社長が、このコロナ禍でどのようなメッセージを発するか気になっていました。

そして迎えた12日。期待以上でした。 社長が発するメッセージは印象に残るものばかりで、私も心を動かされました。コロナ禍の影響をうけたオンライン開催でしたが、リアルタイムでの視聴数は3,000人弱。「感動した」とのコメントもたくさんみられ、心を動かされた方も多かったようです。

プレゼンテーションの形式は、座ったまま正面を向いて話しかけるもので、大きな動きがあるプレゼンではなかったのですが、「伝わるプレゼン」でした
どのような点を「よかった」と感じたのか。私もこれまで発表会などを手がけてきたPRパーソンとして、構成・メッセージ・演出の3つのポイントに焦点をあてて考えてみました。

構成の妙:「何を大切にすべきか」という価値観の発信

今回の決算発表は、いわゆる決算を説明するⅠ部と、章男社長による会見のⅡ部構成となっていました。章男社長の会見はⅡ部の最初20分です。既に全文書き起こしもアップされているので、興味ある方はぜひ読んでみてください。

プレゼンテーションは、次の3つのパートに分かれています。

1.トヨタの企業体質について(リーマン・ショックとの比較)
2.国内生産300万台体制が意味すること
3.最後に

決算での社長会見を教科書通りに進めていくと、業績や戦略の話が中心になりがちですが、今回の会見の場合、業績の話は冒頭で少し触れられた程度。それに対して、「どうあるべきか」「何をめざしているのか」といった価値観の発信に重きを置いている点が印象的でした。

とりわけ、次のような言葉が心に残りました。

「過去に時間を使うのは私の代で最後にしたい。次の世代には未来に時間を使わせてあげたい。だからこそ、未来に向けた種まきだけはしておきたい。
これが私の考える理想のタスキわたしです」
「人はコストではありません。人は改善の源であり、モノづくりを成長・発展させる原動力です。」
「今の世の中、「V字回復」ということがもてはやされる傾向があるような気がしております。(中略)「それは違う」と私は思います」

コロナ禍で先行きが見えづらいなかで、トヨタのようなグローバル企業が「なによりも人財を大切にする」という価値観を明確に提示した。それは細かな事業戦略を話すよりも、共感を生むのではないでしょうか

そうした価値観の提示から、さらに自動車業界、日本経済全体にまで話が及ぶ構成はトップ企業らしい説得力のある発信内容でした。

メッセージ:古風な言葉の意味

そうはいっても、「人財こそ大切」という言葉は他社でも見られます。なにが説得力につながっているのでしょうか?

改めてプレゼンテーションを見直してみると、全体的にエモーショナルで、古風な表現が心に残りました。

「『石にかじりついて』守り抜いてきた」「本当の意味での体質強化」「「意志ある踊り場」「理想のタスキわたし」「仲間づくり」「人はコストではありません」「この信念に、一点のくもりも、ゆらぎもございません」「どんなに苦しい時でも、いや、苦しい時こそ、歯を食いしばって、技術と技能を有した人財を守り抜いてきた企業が日本にはたくさんあります」「『YOUの視点』をもった人財を育てる」

「石にかじりついて」「タスキわたし」「一点のくもりも、ゆらぎもございません」……正直、私がスピーチライターだったら、こういう言葉は選ばないだろうなというものばかりです。どれも(私個人としては)あまり聞きなれない言い回しですから。

しかし、会見ではスムーズに入ってきました。章男社長が自分らしく話した結果として選択されたキーワードだったのではないかと思います。

資料を読み上げる会見の場合、抑揚がなく退屈になってしまうことがしばしばあります。今回の場合、スピーカーが話し慣れているキーワードを使用することで、想いが伝わる構成に落とし込むことができたのではないかと思います。

演出:シンプルな設計と丁寧なサポート

章男社長は、海外のカンファレンスなどでは、動きを持ったプレゼンテーションをしている姿もよくみます。しかし今回は、正面一点の1カメラと、プレゼンテーションの切り替えのみ。政見放送のようなスタイルでした。

これは地味なスタイルに見えますが、意外と難しい方法だと思います。通常であれば、カメラの下や横にある台本を見たり、カメラに投影した台本の文字を追って視点が動いたりしてしまうからです。しかし、今回の章男社長のプレゼンテーションでは、自分の言葉で語っているという印象で、原稿を読んでいる感じがありませんでした。

手元を見せないようにしているところも印象的でした。顔以外の部分を画面から消すことで、視聴者の視線を目や口元に集中させることができ、よりコメントを強く伝えることができるスタイルだと思います。質疑応答に関する関連資料や水など余計なものが映らないという点でも、スマートな印象を残していました。

加えて、ほかに感じたポイントをいくつか書いておきたいと思います。ひとつは、水を飲むタイミングです。スライドに切り替わるタイミングで水を飲むなど工夫が見られたと思います。喋り方という点では、言葉をはゆっくり単語ごとに区切ってお話していて、メッセージをしっかり伝えることに寄与していると感じました

変わる世界のなかで「熱量」を伝えるために

他社の会見やイベントなどから、学ぶことは多いです。
今回の章男社長の会見を通じて、改めて大切だなと思ったのは「熱量の伝え方」です

伝えていきたいメッセージに「熱量」をのせることで、伝わり方は変化します。そして伝え方は、構成・メッセージ・演出などを工夫することでより大きく変わる。私もどうやったらしっかりと想いが伝わるが日々考えています。

今回の会見のように、細部まで気を使いながらも演出はシンプルに、そのうえでしっかりと強いメッセージを伝えていくためには、1つ1つの言葉選びが重要だと改めて実感しました。画面越しのオンラインだからこそ、熱量をのせるための工夫がより重要になっていく。

毎日の生活が変われば、私たちのコミュニケーションも変わっていきます。PRや広報でいえば、今後は会見や発表会はオンライン開催や、オフラインとのハイブリット開催が主流となっていきそうです。

私もさまざまな仕事仲間と話していて、PRのコミュニケーションのあり方、戦略は必ずしもこれまでの延長ではない、新しいやり方があるのではないかと実感しています。
毎日は変化するからこそ、これまでのやり方に縛られず、ゼロから新しいやり方を本気で生み出していく。私も”たすきを締めなおして”これからのPRを考えていきたいと思います。

コロナで変化する毎日に新しいコミュニケーション手法を考えたい、これまでのやり方とは違ったやり方を考えたいという方はぜひお問合せください。当社はコミュニケーション関連であれば広報業務に限らず、お役に立てることは何でもする覚悟です。

Story Design houseでは「意志あるところに道をつくる」をミッションとして、さまざまな企業のPR活動を支援しています。是非、ウェブサイトもご覧ください。
お問い合わせはこちらから。 https://www.sd-h.jp/contact


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