Z世代がインフルエンサーに求めるもの──美容・ダイエット系アカウントから
Z世代とインフルエンサー
まずは現在のソーシャルメディアの利用状況を確認してみよう。UNIAD.coの調査によれば、以下の通りである。
TwitterやInstagram、TikTokといった主要SNSのなかでも注目したいのが、プラットフォーム上で存在感を発揮する「インフルエンサー」の存在だ。インフルエンサーの市場は年々拡大傾向にある。デジタルインファクトの調査によれば、2021年の市場規模は425億円にのぼり、2025年には723億円に到達する見通しだという。
またInsta Labでは、YouTubeとInstagramについて、「上位2つのSNSプラットフォームの特徴として、YouTubeではアプリ、子供向け商材、家電、エステ・コスメなど、若年層に影響力を持つユーチューバーを起用したプロモーションが依然活発」と分析されている。
たしかに、インスタグラマーやYouTuberの「PR投稿」を目にする機会は増えた。これは芸能人よりも一般人に近いインフルエンサーの広告に対して、若者が価値を感じていることの現れではないだろうか。実際、SNSを始めて有名になるというシンデレラストーリーを持つインフルエンサーたちは多い。
たとえば、影井ひなさん。現在日本のTikTok界でフォロワー数女性NO1の彼女は、TOKYO HEADLINEのインタビューで、TikTokを始める前は「ただの学生」だったと語っている。そんな彼女は、今や多数のPR案件を抱え、ドラマにも女優として出演するに至っている。
あるいは、ダイエットインスタグラマー・hazuさん。彼女は「ダイエット=つらいのイメージを変えたい!」をキャッチコピーに、自身のダイエット経験談をアップしている。インスタグラムのストーリーの投票機能を使い、「夜ご飯の後にお菓子を食べていない人?」と呼びかけるなど、ほかのユーザーと直接コミュニケーションがとれるInstagramならではの手法でダイエットを目指す人にアプローチしている。最近では&Melという、罪悪感を感じずに食べられるヘルシースイーツを手掛けるブランドも立ち上げている。
実際のところ、こうしたインフルエンサーを起用した若者向けのSNSマーケティングはどのようなものだろうか。
美容系インフルエンサーとPR案件
テレビCMを見ると、広告PRには誰もが知っている芸能人が登場する。しかしInstagramをはじめSNSの世界では違う。フォロワーこそ多いものの、特定の世代やコミュニティ以外では無名のインフルエンサーが、しばしばPRをおこなっている。
「一般人」を用いる SNSのPRにはどのような特徴があるのだろうか。ここからは数多くのインフルエンサーやSNSマーケティングの領域のなかでも、私自身の関心が深いダイエットを事例に分析する。体型にコンプレックスを抱え、ダイエットインスタグラマーを見尽くした私ならではの視点が提供できればと思う。
結論から言えば、SNS上でのダイエットにかんする訴求には、次の3つの共通点がある。
① 広告出稿は「人のコンプレックスを解消するもの」が多い
SNSを中心にしたPRには、体型の悩みや脱毛など人のコンプレックスを解消するものが多い。たとえば、グラマラスパッツ。これは着圧することによって足が細くなるという効果を狙った商品である。
こうした商品がSNSで流行するのは、店頭で買いづらいからではないだろうか。特に体型のようにセンシティブなトピックに関する商品の場合、「人から見られずに買うことができる」ネットショッピングは効果を発揮するだろう。
人と共有しづらいトピックに関する商品も然りである。たとえば、YouTubeに流れる脱毛の広告。家族や友達とTVを見ていて脱毛の話になることはなかなかないが、自分ひとりでYouTubeを見ているときにCMを見ると「ちょっと考えてみようかな」とこっそりリンクを踏んでしまうことがある。自分ひとりで見ている瞬間の多いSNSは、良くも悪くもコンプレックスに寄り添いやすいのではないか。
誰にも見られずに買うことができる。それはSNSマーケティングのもつ大きな強みだろう。
② PRをおこなうインフルエンサーはなんらかの専門性をもつ
このように、インフルエンサーは特定の専門性によって注目されることが多い。しかし、いわゆる専門家ではなく、一般人、いわば素人に近い人の専門性にフォーカスされるのはなぜだろうか。
ダイエットアカウントの場合、インフルエンサーから発信される情報のほうが、マスメディアの情報よりも信頼されやすいことがある。PR案件をやらないアカウントであればとりわけ「このひとは後援の企業がないから、自身が純粋に良いと思ったものを紹介してくれているはず」と考えるからだ。
美容アカウントの流行にも同じ背景があるだろう。素人の意見だからこそ、力を持つ場合もあるのだ。クラスで一番可愛い子が使っているシャンプーを真似するような心情がSNSでも表れているのだ。
そんな逆説的ともいえる「素人の持つ専門性」に期待して、多くの企業がインフルエンサーにPRを依頼している。コスメ紹介をする美容系インスタグラマーによる新作ファンデーションのPR、ダイエット系TikTokerによる酵素ドリンクのPR、カップル系YouTuberによるラブコスメのPR。挙げればきりがない。
ひとりひとりのインフルエンサーの影響範囲は大きくない。テレビCMとは違って、フォロワーのみにとどまっているからだ。しかし、そのフォロワーはみなインフルエンサーの発信に興味を持っっている。そんな興味関心の強い層に確実に情報を届けられるからこそ、いまインフルエンサーが重宝されているのだろう。
もちろん、インフルエンサーがPRばかりやっていたら「素人の持つ専門性」は崩壊してしまうだろう。それはもう「素人」ではないからだ。そんな微妙なバランスの上で成り立つインフルエンサーマーケティングは、将来的にも続いていく方法なのか。今後も注目していきたい。
③ SNSとECサイトのスムーズな導線設計
最後に、SNSマーケティングでは各種プラットフォームとECサイトの距離が非常に近いという特徴がある。テレビCMや新聞広告と比べて、購入画面にワンタッチでリンクすることができるのは大きな強みだだろう。
たとえばInstagramの場合、日常のなかで自然に閲覧する「ストーリー」から、スワイプするだけでECサイトに飛ぶようなPRを展開できる。ユーザーに迷う隙を与えず、すぐ購入に結び付けるような導線設計がなされているのだ。
大学生に聞く「インフルエンサーの紹介で実際に買ったことがあるか」
最後に、筆者のInstagramアカウント(フォロワー560人、大学生中心)でとった「インフルエンサーのPR案件について」のアンケートを紹介しよう。Z世代の消費者のリアリティを感じてほしい。
Q1. 買ったことはあるか
Q2どんなものを買ったか
この設問に答えてくれた20人のうち、15人は女性。その8割がコスメを買ったと回答している。さらに、コスメを購入したと答えた女性(21才、学生)に直接取材すると、次のように話してくれた。
このインタビューで印象深かったのは、インフルエンサーならではの信頼の存在だ。もちろん、PR案件はCMと同じように企業と契約して仕事としておこなうもの。インフルエンサーであっても、よい商品だからおすすめしているとは限らない。それでも信頼によって購入につながるケースがあるというわけだ。
これこそが、インフルエンサーのもつ訴求力につながっているのだろう。Z世代に対する大きな影響力の背景には、これまでのメディアとは異なる手法で勝ち取った「信頼」があるのだ。