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ESG企業に学ぶ、経営課題と社会課題を統合するブランディング

私たちSDhは、この春にブランドリニューアルを実施しました。創業以来、お客様の意志を実現するためのコミュニケーション戦略をデザインしてきた弊社ですが、今後はこれまで以上に、企業組織や事業の成長に寄り添い、そのストーリーを磨き上げるブランディングに取り組んでいこうと考えています。

人々の価値観が大きく変容した現代、企業にどんな熱い想いがあっても、独りよがりのストーリー設計では、その想いがステークホルダーに伝わらなくなってきたからです。たとえ営利企業であっても、自社のソリューションそのものだけではなく、社会課題の解決につながるストーリーを描き、鮮やかに提示する必要があります。

そんな時代の変化を示すひとつの材料として、社会や環境に配慮し、未来に貢献する企業を評価する指標「ESG」の普及があります。ESGはEnvironment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)の頭文字をつなげた造語で、投資判断の材料として用いられることが当たり前になってきました。具体的には、二酸化炭素排出量の削減や再生エネルギーの使用、ジェンダー平等やダイバーシティ、情報開示といった取り組みを評価するものです。

そこで本記事では、世界約9000社の企業のESGデータを分析するプラットフォーム「ESG Book」にて世界100位以内のスコアを獲得している日本企業4社(2022年10月10日時点)に着目し、そうした企業が自社の取り組みをどのようなストーリーで伝えているかを紹介します。4社の事例を通じて、今求められる経営課題と社会課題をつなぐブランディングについて考えてみましょう。

資生堂:誰もが美しさを追求できる社会を目指す

化粧品業界は長年、一定の基準に沿った美しさを追求してきました。広告やメディアに登場するモデルやタレントも、一般的に美しいとされる特徴を持つ人が中心でした。しかし、社会全体で多様性やインクルーシブ性が重視されるようになった近年では、誰もが自分らしい美しさを追求できる商品の開発、ひいては多様な美しさを受け入れる社会環境づくりが、化粧品業界の重要な経営課題となっています。

化粧品メーカーの資生堂は「美の力を通じて、お客さま一人ひとりの生涯にわたるしあわせに貢献する企業であり続けたい」という創業以来の想いにもとづき、さまざまな取り組みを実施しています。

例えば、SHISEIDOブランドによる中学生向け無料教材「誰もが自分らしく美しくいられる世界へ」の開発もその一つです。この教材は、先生向けオンライン情報共有プラットフォーム「SENSEIノート」を開発運営するARROWS Inc.と協力して作られたもので、「無意識の偏見や思い込み」に気づき、自分たちにできることを考えるためのもの。2023年3月より、全国4万人以上の先生へ教材提供の告知を始め、すでに多くの授業実施申し込みを受けているということです。

また資生堂は、生まれつきのあざ、やけど跡や傷跡、病気や治療による見た目の変化など、肌に深い悩みを持つ人々に向けた商品開発や無償カウンセリングも実施しています。2022年からは、国立がん研究センター東病院ほか複数組織の共同プロジェクトとして、定期的に「メイクアップアドバイスセミナー」を開催。がん治療中の副作用による外見変化の悩みや不安を軽減し、治療中でも日々を元気に自分らしく過ごしてもらうための取り組みを行っています。

このように多様な人々の悩みに応える施策や、未来世代に貢献する取り組みを通して、資生堂はいち化粧品メーカーのポジションを超えて、社会のニーズに応える信頼性のある企業としての地位を確立しています。

バンダイナムコ:持続可能なものづくりを伝える

エンタメ業界をリードするバンダイナムコグループ。製造する玩具の多くにはプラスチックが用いられており、運営するアミューズメント施設ではたくさんの電力が使われています。だからこそ、同グループでは脱炭素や代替プラスチックの活用を進めてきました。

そうした活動が結実したユニークな取り組みとして、「ガンプラアカデミア」があります。これはガンプラ(「ガンダムシリーズ」のプラモデル)を題材にした無償の小学校向け授業パッケージです。2021年10月から始まり、2022年3月までの半年間に約1400校の小学校、約9万人の児童が受講。受講児童のうち8割は小学5年生で、これは全国の小学5年生の7%にも及ぶというから、本気度が伺えます。

授業はプラモデルの組み立て体験と配信映像の視聴によって構成され、実際にガンプラづくりを体験しながら、生産過程やプラスチックのリサイクルといった同グループの活動を学びます。リサイクル素材で成形した「エコプラ」の提供や、使用済みランナー(プラモデルの枠部分)をその場で粉砕・成形する体験など、プログラムの充実化も図っています。

バンダイナムコグループの強みは、自社で豊富なIPをもつ点にあります。ガンプラアカデミアは、そんな訴求力の高いIPを活かして、ESGの取り組みを子どもたちに効果的に伝えるプログラムだと言えるでしょう。

塩野義製薬:コロナ禍のリブランディング

多くの産業に影響を与えたコロナ禍。なかでも製薬会社は、感染症対策に直接貢献しなければならない立場にあると言えるでしょう。そのなかでリブランディングをおこなったのが塩野義製薬です。もともと三大感染症(結核、HIV、マラリア)薬に注力してきた同社は、飲み薬「ゾコーバ」の開発に成功するなど、コロナウイルスの治療薬でも強みを発揮。その創薬技術の高さを示しました。

こうした成果をあげる一方で、2020年6月のリブランディングでは、「創薬型製薬企業」から「ヘルスケアプロバイダー」へを謳い、疾患啓発や診断など、治療薬の開発だけではないトータルケアの取り組みを推進すると表明しました。

2021年には下水中のウイルス痕跡を測定し、地域にコロナウイルスがどれくらい蔓延しているかを調べる下水疫学調査サービスをリリースするなど、早くも製薬に限らないソリューションを提案する動きを見せています。

創薬・製薬といったコンセプトをアップデートしなければならなかった重要な社会課題として、薬剤耐性の問題があります。これは抗菌薬の不適切な使用や抗菌薬製造工場からの環境排出によって、薬剤耐性菌が増加してしまうというものです。もはや創薬・製薬では解決できない問題を背景に、同社はリブランディングをおこなったのです。

村田製作所:未来のイノベーターを育む出前授業

少子化が進む日本ではどの業界においても人手不足が深刻化していますが、中でも技術革新が急速に進んでいるエレクトロニクス業界では、継続的なイノベーションの実現に向けた優秀な人材の確保が特に重要課題となっています。

そこで電子部品メーカーの村田製作所は、未来のイノベーターである子どもたちに科学技術への関心を持ってもらう「STEAM教育活動」の取り組みを通じて、上記の課題に向き合っています。STEAM教育とは、Science、Technology、Engineering、Liberal Arts、Mathematicsの5つの領域を対象とした理数教育に創造性教育を加えたものです。村田製作所は、2006年以来このSTEAM教育を「出前授業」というスタイルで提供しています。

出前授業で提供されるのは、自転車型ロボット「ムラタセイサク君」を用いてものづくりの仕事の面白さを伝えるキャリア教育、電気エネルギーと環境との相関関係を手を動かしながら考える環境教育、ロボット役の人間をプログラミングで動かすというユニークな手法のプログラミング教育など。さまざまな部署から幅広い年齢の従業員がボランティアで運営に参加し、各事業所近隣の学校を中心に、年間約100回の出前授業を実施しています。この出会いをきっかけに理系の進路を選び、村田製作所へ入社する生徒もいるそうです。

なお同社は、日本国内だけでなく海外の事業拠点でも出前授業を実施しています。こういった取り組みを通じて村田製作所は、未来世代に積極的に投資し、グローバルな視点で科学技術や地球環境の持続可能性を追究する企業としてのブランド力を高めています。

まとめ:自社の事業と社会課題をつなぐブランディング

これまで見てきた資生堂、バンダイナムコ、塩野義製薬、村田製作所。ESGをリードする4社に共通しているのは、ただ環境や社会に配慮した取り組みをおこなっているだけではなく、自社の事業と社会課題を結びつけるストーリーを構築している点です。

社会の持続可能性に寄与しているかどうかが投資判断に直結する時代において、企業は自社の描く社会像・未来像を積極的に提案することが求められているのではないでしょうか。

連載:ゆるい課題ラボ
会社組織には短中期的にやらなければならないことがたくさんある一方で、長期的な視点で検討したり、知見やネットワークを蓄積したりと、着実に取り組んでおきたい課題もあります。本連載では、そんな「ゆるい課題」を編集部がリサーチし、その成果を記事として社内外に共有していきます。

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