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サステナブルなスニーカーは売れるのか? ~日本のサステナブルに関連する消費行動から考える~

こんにちは、Story Design houseインターンの鈴木です。私は大学でマーケティングを学ぶとともに、難民問題やフードロスといった国際問題に取り組むサークルに参加しています。

最近、サークル活動のなかで特に重要視しているのがサステナビリティ(持続可能性)です。SDGsの隆盛とともに、日常生活のなかでもサステナビリティに関するテーマに触れることが増えました。

日本において一番わかりやすい変化は、2020年7月からのレジ袋有料化ではないでしょうか。こうした動きによって、徐々にサステナビリティを意識した消費行動に取り組む土台ができつつあるように思います。

『日経トレンディ』における2021年のヒット予想でも「サステナコンシャス」がキーワードとされ、自宅から生活用品の容器を回収するサーキュラー・エコノミーのプラットフォーム「Loop」や、昆虫食市場全体の盛り上がりを受けた「コオロギ食」が、それぞれ2021年のヒット予測4位、5位となっています。

私自身の消費体験としても、大好きなスニーカーを買いに行くとき、売り場で環境に配慮してつくられたサステナブル・スニーカーが大きく扱われるようになってきていると感じます。

このnoteでは、スニーカーを通じて、サステナビリティを意識した消費トレンドがどのように変遷していくか考えていきたいと思います。

大手各社のサステナブル・スニーカー

メーカー側は、大手各社ともサステナビリティを意識したスニーカー開発に力を注いでいます。いくつか実際のケースを紹介します。

・ナイキ
世界的にトップシェアを誇るナイキは、炭素と廃棄物の排出量をゼロにすることを目指し、スポーツの未来を守る取り組み“Move to Zero”のもと、サステナビリティを意識した商品を精力的にラインナップに加えています。

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画像のスニーカーは、昨年6月に発売された「ナイキ スペース ヒッピー」。スペースと銘打たれているように、「宇宙ゴミ」を使ったサステナブルなスニーカーです。「宇宙ゴミ」とは、ナイキの工場の床に落ちたスクラップの愛称で、リサイクルされたポリエステルなどの素材を意味しています。

この新商品の他にも、ナイキはエアフォースやエアマックスといった従来の人気商品を、再生レザー繊維やプラスチックボトルを再利用した素材で製造しています。

・アディダス
次にアディダスでは、王道の一足「スタンスミス」に加わった「ビーガンスニーカー」が特徴的です。

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このスニーカーは「ビーガン」とあるように、レザーや着色、接着剤に動物由来の原料をまったく使っていません。100%リサイクルされたポリエステルや、アウトソールには天然ラバー90%とリサイクルラバー10%を使用しています。側面には“THIS SHOE ALONE WILL NOT SAVE THE PLANET”と印字されています。個人的な話ですが、私が初めて購入したサステナブル・スニーカーもこのモデルでした。

ほかにも代表的な取り組みとして、海洋プラスチックゴミを再利用した商品を開発する“For The Oceans”もあります。

ニューバランス

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ニューバランスは、2020年8月にウィメンズ限定コレクションとして「UN-DYED PACK」というモデルをリリースしました。

このスニーカーの最大の特徴は、色です。使用しているパーツすべてが“UN-DYED” すなわち染色されていないのです。その結果、化学物質の使用が減り、水や着色工程によって発生する無駄も削減しています。

新興メーカーのサステナブル・スニーカー

サステナビリティを意識した商品の開発に取り組むのは、大手各社だけではありません。新興メーカーのなかにも、こうしたコンセプトに取り組むメーカーがあります。

・VEJA
2005年にフランスで設立されたVEJAは、大手各社とは異なり、開発するすべてのスニーカーが「オーガニック」なものになっています。

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大手各社とは異なり、VEJAは全てのスニーカーが「オーガニック」であることを特徴としています。ソールなどに使用するゴムは、クラシックな農法で天然ゴムを採取するブラジルのゴム農家から仕入れており、キャンバス・ファブリックも、オーガニックコットン農家と契約し生産しているそうです。

ランニングタイプのスニーカーに使用されているナイロンのファブリックは、日本発のリサイクル技術が使用されています。リサイクル可能なペットボトルを原材料としており、化学処理なしで、熱処理と物理処理のみで再製品化する特殊な技術だといいます。

オールバーズ
2016年にサンフランシスコで設立されたシューズブランド、allbirds(オールバーズ)。立ち上げたのは、プロサッカー選手だったティム・ブラウン氏とバイオテクノロジー専門家であるジョーイ・ズウィリンガー氏です。

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最初に開発された「Wool Runners」はニュージーランド産の羊毛素材、メリノウールを使用しています。通気性に優れ、柔らかく軽い仕上がり、履き心地のよさで話題を集めました。ほかの商品でも、合成素材を使わず、ユーカリの木やサトウキビといった「自然に育まれた素材」を主として用いています。

ロゴがなくとてもシンプルなつくりで、サステナビリティへの配慮とスニーカーとしての快適さが人気につながっています。私もこのメーカーのスニーカーを持っていますが、たしかに履き心地は最高です。

サステナブルへの取り組みの差

ここまで各社のサステナブルなスニーカーを見てきましたが、今回取り上げた大手メーカーと新興メーカーには、商品に対するサステナブルという価値の置き方に大きな違いがありそうです。

大手各社は「サステナブルなスニーカーつくったよ!」とサステナブルそのものを最大のアピールポイントとしているように思います。既存の人気商品の製造方法をサステナビリティを意識したものに移行している企業もあり、リーディングカンパニーとしての社会的責任の意識も感じられます。

その一方、新興メーカーはサステナブルであることは前提になっており、デザインや履き心地などの機能性といった本来スニーカーとして求められることにも積極的にアプローチをかけているように感じます。「サステナブルな上に、他にも大きな価値があるよ!」と、消費者にサステナブル以外の価値を訴求することも大切にしている印象です。

この違いは、これらの企業の商品が消費者にどのように受け取られ、実際に売れるのかとも大きく関連してくるのではないかと感じます。

アメリカのZ世代にとって、サステナビリティへの配慮は当たり前?

各社のサステナブルなスニーカーについて、消費者はどのように動いているのでしょうか。

スニーカーに限ったことではありませんが、アメリカではサステナビリティに対する高い意識を引っ張っているのは主に若年層、具体的にはミレニアル世代(1980年〜94年生まれ)とZ世代(1995年〜2010年生まれ)です。彼ら彼女らにとっては、商品の購買時にサステナビリティに配慮した製品であるかどうかは、とても重要な判断基準になるようです。

たとえば、世界60か国で行われた2015年時点の調査 “2015 Nielsen Global Corporate Sustainability Report” によれば、ミレニアル世代の73%がサステナブルな商品に「よりお金を支払うことを厭わない」と考えていると回答しています。
アメリカではこの傾向がさらに顕著で、2019年のファーストインサイトの“The State of Consumer Spending: Gen Z Shoppers Demand Sustainable Retail”によれば、おおよそ大学卒業を迎える年齢となったこの年から社会人となっていくZ世代の62%がミレニアル世代の調査結果と同様に、サステナブルなブランドからの購入を好んでいるといいます。

また、小売店での購買決定に関するサステナビリティの関連性と影響を調査した“The 2019 Retail & Sustainability Survey”によれば、Z世代は、「サステナビリティに配慮したサステナブルな商品であれば、一般的な商品と比べて最大50~100%増の金額を支払ってもいい」と考える人の割合が、どの世代よりも多くなっています。

さらに、2019年のマッキンゼーのレポートでは、アメリカのZ世代とミレニアル世代には約3,500億ドルの消費力があると述べられています(Z世代が約1500億ドル、ミレニアル世代が約2,000億ドル)。
2020年には世界の消費者の40%をZ世代が占めるようになると予想されています。このことは、Z世代とミレニアル世代の消費者の意見がすでに非常に重要なものとなっていることを意味しています。

彼ら彼女らがサステナビリティを購買基準として重要視しているならば、それは見逃すことのできないニーズであり、サステナブルな商品・サービスの開発は必要不可欠となるでしょう。では、日本の消費者はどうでしょうか?

日本人はサステナブルをどう思っているか

私自身の感覚ですが、周囲の大学生を見ている限り、サステナビリティに対する意識が大きく変化しているという印象はありません。とりわけ、購買時に商品がサステナブルなものであるかを強く意識してる人は少ないように感じます。

とはいえ、そうした感覚がまったくないとも言えません。たとえば、博報堂が2019年に全国20-60代の男女計6,000名を対象として行った「生活者のサステナブル購買行動調査」では、次のように結論づけています。

調査結果からは、資源をムダづかいしないよう「必要最小限を買い(ミニマル)」、修理などしながら「長く使い(ロングライフ)」、不要になったものも「人にあげる・売る(サーキュラー)」という、サステナブル(持続可能)な購買行動の特徴が見えてきました。
https://www.hakuhodo.co.jp/news/newsrelease/74993/

たしかに、「長く使えるものを買う」「賞味期限間近で安くなったものを買う」といった消費行動にはリアリティがあります。

一方で、「生産・製造時に環境に負荷をかけない商品を買う」、「環境・社会貢献活動に積極的な企業の商品を買う」、「生産・製造に携わる人の生活や人権に配慮した商品を買う」といった項目では、購買意向こそ高いものの、実際の消費行動には結びついていないという結果も示されていました。

現状の日本では、環境や社会問題についての訴求だけでは消費者ニーズの喚起には至らず、「賞味期限が近い食品は(廃棄を防ぐことができるし)安いから買いたい」というように、別の価値とセットでなければ実際の購買行動につながらないという仮説を立てられるのではないかと思います。

日本でサステナブル・スニーカーは売れるのか

最後に、改めてサステナブル・スニーカーが日本の市場でどのように評価されていくか検討したいと思います。

日本の消費者のサステナブル商品に対する購買態度から考えると、スニーカーにおいても、サステナビリティ以外の価値が求められてくるのではないでしょうか。「サステナビリティ以外の価値」とは、たとえば、ブランドに対する高いロイヤリティです。大手スニーカーメーカーのように、もともとのロイヤリティでサステナブルなスニーカーを売ることができるブランドもあるでしょう。

しかし、サステナビリティに配慮した市場全体を拡大していくためには、これだけでは不十分ではないかと思います。もともとそのブランドへの思い入れがない人にはリーチできないからです。各社のブランド力に依存するだけではなく、日本で新しいサステナブルな商品の市場を広げていくためには、どうしたらいいのでしょうか。

こちらの電通報の記事がヒントとなるかもしれません。「もったいない」「おすそ分け」といった伝統的な価値観を「日本ならではのサステナブルな考え方」として発信していくことが大切だと書かれています。

日本の消費者が理解しやすいコンセプトをベースにして、サステナビリティについてメッセージを発信していくことは、スニーカーだけでなく、日本市場でサステナブルな商品を売るための有力な方法論になりうると考えています。

Story Design houseでは「意志あるところに道をつくる」をミッションとして、さまざまな企業のPR活動を支援しています。是非、ウェブサイトもご覧ください。
お問い合わせはこちらから。 https://www.sd-h.jp/contact


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