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徹底した取材から、日本経済を「超わかりやすく」伝える。 NewsPicks平岡乾さんインタビュー

「経済を、もっとおもしろく。」を掲げ、国内外の経済情報や独自の解説・検証記事を配信する経済ニュースメディア「NewsPicks(ニューズピックス)」。ビジネスパーソンや大学生の間で急速に浸透し、会員数は600万人を超える。
プロピッカーと呼ばれる業界の著名人や有識者の存在、実業家や芸能人を起用した動画番組の制作など、華やかな側面も目立つNewsPicks。そのなかで、経営やものづくりのジャンルでひときわ骨太な記事を手掛けている記者がいる。平岡乾さんだ。

産業・経済専門紙「日刊工業新聞」記者を経てNewsPicks編集部に加わり、日本企業の抱える課題を追い続けてきた平岡さん。有料会員数も18万人を超え、成長を止めないNewsPicksの記者は、どんなことを考えながら記事を書いているのだろうか? 

平岡 乾(ひらおか・けん)さん / NewsPicks記者。
東京工業大卒業、同大学院修士修了後、2008年日刊工業新聞社に入社。初任地の群馬支局では製造業の中小企業を取材し、2012年から東京本社で素材・化学産業や経済産業省を担当。2017年に大阪支社へ異動し、パナソニックやシャープ、ダイキンなどの電機機械企業を取材。2019年、NewsPicksに入社。「経営・ものづくりジャーナリスト」として、検証・分析記事や経営者インタビューを手がける。

PV至上主義ではなく、クオリティの高い記事を

——平岡さんは、NewsPicksで「無敵のダイキン」「経営の未来」「ジョブ型時代の働き方」「超入門、半導体」といった記事を担当され、「経営・ものづくりジャーナリスト」として活動されています。学生時代から、経済分野の記者になることを志していたのですか?

平岡乾さん(以下、平岡) もともとは科学ジャーナリストになりたいと思っていました。大学、大学院では生物進化を専攻し、タンザニアの湖や海に生息する魚の進化の過程や遺伝子配列を研究していました。冷凍された大きなシーラカンスを運搬したのが印象深いです。重くて、臭いがキツくて……(笑)。経済・産業界にはあまり貢献しない研究かと思いますが、探究心に基づいて活動していましたね。

研究者の道も一時考えましたが、地道な研究よりも、世の中の複雑な事象を俯瞰したり、外へ出て有識者に会って話を聞いたりするほうが自分に向いていると考え、新聞記者を目指し、新卒で日刊工業新聞に入社しました。自分の性格として、やりたいことをやるほうが最終的に報われるだろうとも当時から考えていました。

——現在のNewsPicks ではどんな仕事をされているのでしょうか。

平岡 月に5、6本の記事を書いています。NewsPicksでは、他メディアの記事の配信や有識者の寄稿などもあるので、新聞社時代に比べれば自分で書く記事本数は多くありません。その分、入念に企業の下調べをしたり、インタビューの質問事項を練ったりと、準備に時間を使っています。

多くのウェブメディアが記事を無料で配信する中、NewsPicksは月額1,500円(プレミアム会員)をいただいていて、高いクオリティが求められるメディアです。読者には専門的な知識を持っている人もいますし、取材の足りない記事を書けば批判も受けます。プレッシャーと共に、やりがいを感じながら仕事をしています。

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——手掛けた記事のページビュー(PV=閲覧数)やコメントは意識されていますか?

平岡 各記者がどれだけPVを獲得しているか、どの記事がどれだけ有料会員を増やしたかという数字は、編集部内で見えるようになっています。しかしそれだけが指標ではなく、記者がPVをダイレクトに求められることはありません。

専門性が高い記事はどうしても間口は狭くなりますし、専門的な情報を必要としていた読者の満足度は高くなるはずですから、PVが少なくても一概に悪いとは言えない。もちろん、あまり読まれなかった記事は、見出しや導入部分、デザインを含めて個人的に反省はしています。

記事へのコメントはすごく参考にしています。一歩踏み込んだ記事を書けば、いろいろな反響もありますが、果敢にチャレンジするようにしています。読者のフィードバックが次の取材に活きますし、私自身の成長にもつながっていると感じています。

「超わかりやすい」記事を目指す

——記事を書く上で意識されていることはありますか?

平岡 「読者の興味を引く」という点は、新聞社時代よりも強く意識するようになりました。次も読みたいと読者に思ってもらえるように、記事のストーリー展開を熟考したり、冒頭の問いかけの文章を工夫したり。まだ勉強中ですが、デザイナーと協働で情報やデータを視覚的に表現した「インフォグラフィックス」を用いることもあります。

NewsPicksは、就活生を含めて20代、30代の若い読者も多いので、業界の基本的な知識や専門用語を丁寧に説明するように心掛けています。わかりやすいのは大前提で、そのうえで「定説や常識と呼ばれていたことにあえて疑問を投げかける」ことで、読者に新たな気付きを提供する「超わかりやすい」記事を目指しています。

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——もともと日刊工業新聞で記者をされていて、2019年にNewsPicksへ転職されました。きっかけは何だったのでしょうか。

平岡 約11年間の新聞記者の経験で、私の記者としての問題意識がはっきりしてきました。「メンバーシップ型」といわれる従来型の人事制度では、社内での異動や転勤、担当交代があり得ます。やりたいことが明確にある自分にとっては、フリーの記者にならないまでも、次のステップへ進む時期だと考えるようになりました。

転職を意識し始めた頃、ある企業の方から、私の書いた新聞記事がNewsPicksでバズっていると教えられました。当時はNewsPicksをあまりよく知らなかったのですが、ちょうどそのタイミングで記者の求人募集を見つけたので、何気なく応募してみました。面談で話をすると意気投合して、呼んでもらったという流れです。偶然が重なった結果の転職でした。

現場取材を繰り返すうちに見えてきたこと

——新卒で入社された日刊工業新聞ではどのような取材をしていたのですか?

平岡 科学ジャーナリストにあこがれていたこともあり、いずれは科学技術部への配属を希望していたのですが、最初の配属先は群馬支局でした。群馬県内の製造業の現場をひたすら回っていましたね。入社後すぐは景気が良く、新しい工場を建てるだとか、最新の機械を導入するといった話題が多かった。しかし間もなく2008年9月にリーマン・ショックが起き、工場ではどんどん仕事が減っていきました。

そうすると、記者としても「ネタ」がないわけです。景気の良い話は取材しやすいですが、話題を掘り出す場合には、業界をしっかりと理解する必要があります。そこで、各企業の特徴を徹底的に勉強し、今どういった技術や企業が求められるのかを学んでいきました。ものづくりに関してはほとんど何も知らないで記者になったので、非常に鍛えられた期間でした。

——印象的な取材はありましたか?

平岡 現場取材の重要性を体感することがよくありました。例えば、リーマンショック後にある中堅企業の社長が「国内は大打撃だが、中国の子会社は仕事が急増している」と話してくれたんです。この発言を聞いて、日本の景気が回復しても、国内に仕事は戻らず空洞化が進むだろうと考えました。構造的な問題にいち早く気づいて記事にできましたが、それは現場にいたからこそです。

ものづくりの現場に通い続けるうちに、少しずつ業界の現状や課題がわかってきて、取材が楽しくなりました。当初目指した科学ジャーナリストにはなれませんでしたが、製造業の課題をさらに深掘りしたいと思ったのです。むしろ、「ものづくりジャーナリスト」が天命だと感じるようになりました。

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4年間群馬支局にいたあと異動で東京本社へ移り、化学メーカー担当として、半導体の製造過程で使われるフィルム素材のメーカーを中心に取材していました。スマートフォンやパソコンの製造に欠かせない素材で、日本企業のシェアがこれまでずっと世界トップ。当時すでにさまざまな製品でコモディティ化が進み、製造の中心が中国や韓国、台湾などにシフトしていましたが、技術が簡単には数値化されないフィルムなどの分野において日本が強いというのは大変印象的でした。

その後は経済産業省の記者クラブに所属し、製造業のデジタル化を目指す政策である「日本版インダストリー4.0」の取材にも注力していました。2017年には大阪支社に異動になり、パナソニックやシャープ、ダイキンなどを取材していました。

これからの時代の「経営・ものづくりジャーナリスト」として

——製造業への豊富な取材経験が、いまの「経営・ものづくりジャーナリスト」としての平岡さんのキャリアにつながっているのですね。最後に、今後取り組んでいきたいテーマを教えてください。

平岡 「日本経済の再考」です。「日本の製造業は負けた」などとよくいわれますが、私はそうは思いません。たしかに、液晶パネルや太陽電池、半導体などは海外にシフトし、日本から撤退したのは事実です。しかし、それらの製造過程で使われる機械や素材は日本が圧倒的に強い。単に「負けた」や「限界」と表現するのは安易すぎます。日本のものづくりの長所をしっかりと伝えた上で、実際に直面している課題を伝えていきたいです。

課題の部分については、日本のものづくり企業の経営面の弱点を問い直したい。高い技術がある一方で、「コーポレート・ガバナンス」(企業統治)、「ファイナンス」(財務)、「ヒューマンリソース」(人事)の3点に弱く、組織がプロフェッショナル化していないために、利益を出せなかったり、自滅したりする。当たり前のことを当たり前にやれば、日本企業は負けないはずです。

さまざまな取材を重ねていると、一企業の話にとどまらない共通する課題や解決策が見えてくることがあります。NewsPicks は、これからビジネスの世界に進んでいく若い読者が多いメディアです。私の学びや気づきをそうした若い読者の方にも届けていけたらと思います。

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(取材・文:一ノ瀬伸 写真:Kohichi Ogasahara 編集:鈴木亮一)

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