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食料不足を解決!食品寿命を伸ばしフードロスから最適化へーー世界の台所を目指すタイの最新フードテックとは

アジアのディープテック・スタートアップが参加する、日本発・唯一のカンファレンス──アジア・アントレプレナーシップ・アワード(AEA)。

今年はアジアの12の国・地域から、先鋭的なディープテック・スタートアップ30社が集結。2020年10月27日(火)から29日(木)まで、コロナ禍の状況を鑑みて全編オンライン開催で行われた。

本記事では、今年のAEA優勝企業・Eden Agritech Co., Ltd(エデンアグリテック)が展開する、野菜や果物に塗布する可食フィルム事業を紹介する。食品廃棄の問題をテクノロジーで解決しようという同社の壮大なビジョンに触れてほしい。

天然成分から作る可食フィルムで、賞味期限を延ばすテクノロジー

AEA2020で優勝したタイのエデンアグリテックは、2016年の設立。野菜や果物に塗布することで食品を劣化から守る透明な可食フィルム「Naturen」を開発し、アグリテックやフードテック領域の有望なスタートアップとして、タイ国内はもちろん、世界中から注目されている。

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エデンアグリテックの可食フィルムは、天然成分から抽出した液体を食品に吹きかけることで表面に薄い膜を形成し、微生物やエチレンガスといった傷みの原因の発生を抑制する仕組みである。これまで5日ほどで傷んでしまっていたマンゴーのような果物であっても、このフィルムによって可食期間を2〜3倍まで延ばすことができるそうだ

フィルムを用いて食品の貯蔵寿命を延ばそうというソリューションそのものは同社以外にも既に存在するものの、化学保存料を使用するなど人体への影響が懸念される手法が多かった。また、新鮮さを維持するという目的に対しても、期待どおりの結果が得られないことが多かったという。

これに対してエデンアグリテックは果物をはじめとする天然由来の成分から可食フィルムを生産することで、健康被害を抑えることに成功した。食品の味や香りにもほとんど影響がないという

フードロスを解決しSDGsに貢献。食料不足解決にも

エデンアグリテックはこの可食フィルム「Naturen」のテクノロジーによって、食品廃棄問題の解決を狙っている。同社のプレゼンテーションによれば、現在フレッシュカットの野菜や果実の20〜40%が廃棄されており、それによって年間約6,200億ドルもの損失が生まれているフードロスは食糧資源の無駄遣いであり、経済的にも大きなマイナスだ。

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SDGs(持続可能な開発目標)においても、「2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食料の廃棄を半減させ、 収穫後損失などの生産・サプライチェーンにおける食品廃棄を減少させる」として、フードロスに関する具体的な数値目標が示されている。今回のAEAにおいてエデンアグリテックが評価されたのは、このような世界的な課題解決にアプローチできる点も大きい。

さらに、食品寿命の延長は、貧困や飢餓の解決にもつながる可能性があるという。現状では、先進国をはじめとする豊かな地域でフードロスが発生したとしても、食品の鮮度を保ったままそれを貧しい国や地域に届けることは難しい。しかし、同社のテクノロジーが発展して食品寿命が延びていけば、食品の余っている地域から足りていない地域へと新鮮なままの食品を送り届けることができるかもしれないというわけだ。

世界には、まだまだ食料不足の地域がたくさんある。FAO(国際連合食糧農業機関)のデータによれば、現在世界人口の9人に1人、8億2000万人以上が飢餓に苦しんでいるという。食料不安蔓延率もあわせると、約20 億人が安全で栄養価の高い十分な食料を定期的に入手できていないと推定されている。

「エデンアグリテックによって地球はより良い土地になり、より多くの人に品質の高い食を提供できるようになる。少ない食料で、より多くの人を助けることになる」。CEO・Norapat Phaonimmongkol氏がピッチで語った言葉は力強かった。

タイが国をあげて支援しているフードテック

こんな夢のようなテクノロジーに、タイ国内からも大きな期待がかけられている。2015年にタイのプラユット暫定政権の下で打ち出された「タイランド4.0」という長期経済開発計画では、今後のタイを担う10の産業のひとつとして「未来のための食品(Food for the Future)」があげられている。2019年には、ツナ缶世界最大手のタイ・ユニオン・グループが、フードテック領域に投資するために3000万ドル(約32億円)規模のベンチャーファンドを、国家イノベーション庁とともに創設するという動きも起こっている。

そのような事情もあって、エデンアグリテックはタイ国内の数多くのスタートアップ・アワードの受賞経験があり、高く評価されている。国策として「世界の台所」を目指すタイにおいては、同社のようなフードテックが伸長し、食品産業にイノベーションをもたらすことが求められているのである。

可食フィルムのライセンス提供で世界を目指す

エデンアグリテックの可食フィルムは、どんな農作物にでも使うことができる。そのため、新しい市場に出荷したいと考える生産者や、遠方へと野菜や果物を輸出する流通業者など、同社の狙う市場は大きい。コンビニの弁当のような加工食品や、生花の工場においても鮮度の維持は重要となるため、生鮮食品以外の業界でもビジネスチャンスがある。

こうした可食フィルムのマーケットは、同社によれば東南アジアでは5億6700万ドル、世界では81億ドル規模にもなるという。

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現在、エデンアグリテックはタイ国食品医薬品承認局で可食フィルムに関する承認を得て、特許も取得。既にタイ国内の食品輸出会社などでは利用されはじめており国内の野菜や果物の鮮度を保ったまま、ヨーロッパなど遠方の地域にリーチするといったケースが実際に生まれている。

今後のビジネス展開としては、タイ国内に工場を建設し直接的な増産を図るほか、国外では同社のソリューションをライセンス提供していく予定だ。展開先の国の化学系企業に可食フィルムのライセンスを販売することで、巨大な設備投資や労働集約的なビジネスモデルを避けながら成長する方向性を探る。日本においても、JETROを通じて日本企業とのコンタクトを図っているという。

AEAでも、フードロス問題を解決するという社会課題に対するビジョンに加えて、エデンアグリテックが狙うマーケット規模の大きさとビジネスモデルが審査員から高く評価されていた。可食フィルムを通じて、フードテック領域でタイから世界を狙う同社の今後に期待したい。

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過去のAEA優勝企業たち

近年のAEAで優勝したスタートアップを紹介する。未来社会に対する明確なビジョンを持ったディープテック・カンパニーが並ぶ。

2019年:Acumen Research Labs(シンガポール)。敗血症を特定するmRNAバイオマーカーを用いた、新しい血液ベースの敗血症宿主反応試験「AcuSept」を開発。

2018年:IMAGR(ニュージーランド)。買い物カゴに備え付けられたカメラによって、消費者がなんの商品を購入したか画像認識で判断できる「SMARTCART」を開発。カートにはQRコードがつけられており、レジを介さずにモバイルアプリで決済できる。

2017年:Claro Energy (インド)。インド国内の農地に外部から人工的に水を供給する灌漑技術を提供。太陽光により農業灌漑を実施することができる革新的なソリューション。

2016年:BorderPass(マレーシア)。紙で行われている入国審査用紙をデータ化し、クラウドで管理できるシステムの開発。航空券の予約時に目的地当局に情報が送信され、渡航者は入国審査を迅速に通過できる。

2015年:サイフューズ(日本)。人工細胞組織を3Dプリントできるテクノロジーの開発。細胞の球状体を集め、それらを串刺しにするという手法で、人工細胞組織を実用可能な大きさにまで成長させることに成功した。

2014年:T.Ware(シンガポール)。空気による圧力を使って、疑似的に包容されたかのような感覚を着用者に与えるベストを開発。感覚探索症や感覚過敏症の患者を助けることができる。

来年以降のAEAには、どんな地球規模の課題解決に取り組むスタートアップが参加するのだろうか。注目したい。

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