「ガイアの夜明け」チーフPに直撃。YouTube時代にテレビジャーナリズムは必要か
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「ガイアの夜明け」チーフPに直撃。YouTube時代にテレビジャーナリズムは必要か

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2000年代まで「メディアの王様」といえばテレビだった。それがインターネットやSNSの普及により、現代人はスマホのなかでYouTubeやTwitterを眺めている。そもそもテレビを持っていないという人も少なくない。

じゃあテレビが過去のものになったのかといえば、当初の予想とは違い、そうではない。メディアが分散化するなか、それでも残る「マスメディア」としてテレビの影響力はいまだに強い。そして、テレビの話題をネットが取り上げ、時には炎上する共犯関係が現れている。

ネットとテレビは、もはや切っても切り離せない関係だ。テレビの側もネットの見逃し配信をはじめ、オリジナル番組制作や、同時配信にも力を入れはじめている。そうした時代に、テレビジャーナリズムにはどのような価値があり、その中の人は何を考えて番組を作っているのだろうか。

テレビ東京制作「ガイアの夜明け」は2002年の放送開始以降、独自の切り口から描かれる「会社員」のリアルや、ときに企業の今後を揺るがすようなスクープを報じることでも注目を集めてきた。企業がPRを考える場合、メディアに取り上げられたいと考えるのは自然なことだ。しかし、それと同じくらい、メディアに取り上げられることによって起きるかもしれない批判や炎上を恐れている。

今回、PR Compass編集部は同番組のチーフプロデューサーを務める野田雄輔氏にインタビューした。2020年に大幅なリニューアルを敢行した「ガイアの夜明け」。その報道スタイルから、これからの企業とメディア、ジャーナリズムのあり方を考える。

野田雄輔さん/「ガイアの夜明け」チーフプロデューサー
1993年、テレビ東京入社。記者として報道局政治部、国際部(外信部)、経済部を経たのち、ワールドビジネスサテライトのディレクターに就任。その後、2006年より「ガイアの夜明け」にディレクター及び、プロデューサーとして6年半制作。夕方ニュースのプロデューサーを経て、2017年よりチーフプロデューサーとして復帰。
2020年4月から新設の統括プロデューサー・経済プロジェクト担当に就任。

いちはやく「新型コロナウィルスの特集」を放送。その裏側とは

–––「ガイアの夜明け」では、3月10日に新型コロナウィルス関連の放送をされましたね。世間で話題になっているとはいえ、長期に渡る取材で制作を行うガイアのような番組が、この短期間でキャッチアップしたことに驚きました。

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3月10日に放送された「見えない敵と闘う~“新型コロナ”に立ち向かう企業~」は、本来予定されていた内容を変更して放送された

内容の差し替えを最終決定したのは2月21日です。ディレクター、プロデューサーを集めたミーティングを開き、どのようなネタが出せるかを話し合い、取材体制を整えました。新型コロナ関連は、3月以降の放送予定も差し替えて特集していきます。本件は世界や日本経済に甚大なインパクトを与えるものですし、その影響はリーマンショック、東日本大震災に匹敵するかそれ以上かもしれません。長期で追いかけていくことになると思います。

–––制作の裏側では、どのようなコミュニケーションが発生しているのでしょうか?

基本的に3ヶ月先くらいまでの企画は決まっています。しかし、僕も含めてガイアの制作陣は報道記者出身がほとんどなので、時流に乗ったネタを取りあげないとおもしろくないというか。いま、新型コロナの影響でニュース番組の視聴率もどんどん上がっていくなかで、全く違うトピックを追いかけることに違和感を感じてしまうひとが多いんです。

今回の場合、僕がコロナウィルス関連の特集を組むことを決め、「その中で君たちはどうするの?」と聞くかたちで企画を出してもらいました。そうすることで、問題意識に根ざした熱量の高い取材ができるし、現場は活性化される。今回のみならず、企画会議中は「ここでじっとしてていいの?」と無言のプレッシャーを与え続けていますね(笑)。

–––今回のように、急遽内容が差し替えられたときは、取材対象をどのように決めているのでしょうか?

これまで取材を通じて出会った企業や個人を起点に探します。たとえば、昨年の大型台風では、西日本豪雨の際に取材した簡易シャワーキット「WOTA BOX」を開発するスタートアップが支援していると聞き、取材を開始しました。

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2019年11月12日放送「巨大台風から1ヵ月 被災者救う挑戦者たち」より

18年間番組を続けてきたこともあり、情報と映像のストックは「ガイアの財産」と言っても過言ではありません。取材を通じて繋がった企業や個人に対して、新たな側面から取材ができるのは、番組独自のおもしろさだと感じています。

寄せられる感想のなかには仕事のヒントになったという声もあって、さまざまなビジネスの現場を回っているガイアならではの視点を、視聴者のみなさまに楽しんでいただけたらと思っています。

–––ちなみに、今回の新型コロナ関連の特集では、どのような内容にしていきたいと考えていたのでしょうか?

番組を作るうえで一貫して大切にしているのは、どんなに暗い状況でも「夜明け」を見つけ出すこと。これまで取材を続けるなかで、救いのない状況に追い込まれても生き生きと仕事をする「現場の人びと」や、限られたリソースだからこそ生まれるイノベーションやアイデアを目撃してきました。

実際に、ドローン技術の発達や在宅ワークの普及など、今回のことがきっかけでイノベーションやテクノロジー活用が一気に進む分野もある。シビアな現実に立ち向かう人びとの闘いを追いかけるなかで、少しでも「夜明けの兆し」が見えるような特集にできればと考えています。

「ガイアの夜明け砲」と呼ばれるのは好きじゃない。

–––最近では、ガイアによる企業の「闇」を暴く内容がSNSで話題となり、炎上に繋がるケースも出ています。こういった反響を、野田さんはどう捉えているのでしょうか?

巷では「ガイアの夜明け砲」「密着に見せかけた告発」なんて呼ばれていますが、あまり好ましくない状況だと感じています。最近では大戸屋HDの働き方改革の取り組みを紹介した際、SNS上で切り取られた話が拡散され、炎上してしまったことがありました。

私たちが取材したいのは「夜明けの兆し」。闇だけではなく、光のヒントになるものです。企業の試行錯誤を追うなかで、社会への問題意識や、視聴者に考えるきっかけを与えたいと思い、放送しています。明らかな違法行為があった場合は「告発」という王道の報道手法をとってきました(注:レオパレスの違法建築を暴いた「マネーの魔力」シリーズ)。「密着に見せかけた告発」などの指摘は全く当たらないですね。

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2019年12月10日放送 「残業を減らす!45時間の壁 シリーズ:人生が変わる働き方」より

–––たしかに、大戸屋HDの回はちょっとしたシーンだけが強調されて炎上してしまった感があります。SNSでの反応も考慮しなければいけないなか、野田さんが番組作りにおいて気を使っていることがあれば教えてください。

番組の編集を担当するディレクターやプロデューサーには、「この現場の本質は何か?」を常に問いかけるようにしています。

–––現場の本質?

たとえば、取材で〈上司が部下に怒鳴られるシーン〉が撮影できたとしますよね。すると、怒鳴られる映像は「刺激的なシーン」なので、使ってしまいがちなんです。ですが、視聴者にインパクトを残しても、考えるきっかけを与えることはできない。「ただおもしろいから、刺激的だから使う」は、SNSで切り取られ、消費されてしまうリスクのある意思決定なんです。

ガイアでは、仮に「刺激的なシーン」だったとしても、このシーンは何を伝えたいのか、この特集で使うべきかを論理的に説明できるよう、常に制作陣に問いかけるようにしています。また、企業への忖度や、関係性の悪化を恐れて放送に入れないネタや場面も、プレビューという試写を繰り返して、厳しくチェックするようにしています。まず「現場の本質を伝えろ」と。

「テレ東だから」こそ養われた独自の視点

–––現場で取材しつつも、番組で伝えるべきことは何かを考える。構成を俯瞰する能力も必要なんですね。

そうですね。どんな特集でも最初は取材という「点」から始まり、取材を進めるなかで内容は当初の予定から変化していきます。さまざまな情報が錯綜し、頭のなかがカオスになる状況で、番組の設計図を描けるか。取材対象者に「これなんの取材なの?」と問い詰められても、毅然と答えることができるのか。これが、経済報道ドキュメンタリーの作り手に求められる素養なのではないかと思っています。

情報が錯綜するなかで構成を作り上げていくのは、言葉以上に難しいです。よく新米記者は「1つのネタに対して3つの違うソースから裏を取れ」と教育されますが、違った視点や思想の情報に触れても取材の意義を見失わない知的体力を身に付けることは、非常に重要だと感じています。

–––さまざまな能力が求められるなかで、ドキュメンタリーの作り手として、野田さんが一番必要だと感じる能力をお聞きしたいです。

現場力ですね。特にテレビ東京では、視聴者を惹きつけるために、同じニュースでも他局と違った角度から切り込むことを叩き込まれました。そのなかで、記者一人ひとりが自分の視点でしか追えないネタを見つけることができるんです。僕の場合、ガイアでも放送している北朝鮮経済の取材が、記者人生のなかで見つけた最大のテーマの1つですね。

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野田さんのライフワークにもなっていると語る北朝鮮取材。ガイアでは、今年1月にも経済制裁下の北朝鮮での取材を放送した

–––たしかに、テレビ東京が運営するYouTubeチャンネル「テレ東NEWS」は、普段のニュースでは一部を切り取って放送される会見や国会の様子を、フル尺で見れるのが特徴の1つですね。他局にはない忖度しない報道姿勢が支持を集めています。

手前味噌ながら、センスいいですよね(笑)。テレビ局としての歴史が浅いので、「他局と同じことをしても生き残れない」という危機感を強く持っているのだと思います。

ガイアでも、他局とは違った角度から取材はできないか、常に狙っています。たとえば、2006年の取材。王子製紙が北越製紙に敵対買収を仕掛けたニュースを追いかけたのですが、記者会見を撮影しに行くと、会場の外でうずくまって、壁に頭を打ち付けている社員がいたんです。

その人は、会社の将来を心配して来ていた北越製紙の社員でした。記者会見よりもその人にフォーカスを当てれば、他局とは違う視点のドキュメンタリーを制作できるかもしれないーー直感的に感じ、記者会見そっちのけで社員への取材を行いました。そんなふうに同じニュースの現場でも、全く違った角度から取材をするのが、ガイアにも通ずる「テレ東のジャーナリズム」なのかもしれません。

「因果を感じる」2020年は、日本の夜明けのきっかけとなるか

–––2020年1月、案内人を女優の松下奈緒さんに変更したり、エンディングテーマを宮本浩次さんが書き下ろすなど、大きなリニューアルを行いました。今回、リニューアルを行った経緯を教えてください。

リニューアルを行った理由は2つあります。1つは、2020年は東京オリンピックが開催される年であり、日本にとって時代の転換点になるタイミングであること。もう1つは、ガイアの視聴者層が高齢化していくなかで、ビジネスの現場で活躍する30~40代に見てもらえる番組にしていく必要があると考えたことです。

番組の顔として取材にも伺う「案内人」には、30〜40代から共感を得られる人物にする必要があると考えました。そこで白羽の矢が立ったのが、松下奈緒さんでした。松下さんは現在35歳。ターゲットの世代でありながら、女優業に加えてピアニストと、自分らしくキャリアを積み歩まれている。不透明な時代で合っても、前向きな生き方、働き方を実践していると感じ、オファーをさせていただきました。

宮本浩次さんにエンディング曲をお願いしたのも、働く人への応援ソングになる楽曲が多く、ガイアの視聴者もきっと元気づけてくれるはずだと思ったからです。僕自身も通勤中に聞いて、元気をもらってましたので、ぜひオファーしたいなと。

–––最後に、リニューアル後の展望を教えてください。

オリンピックや改元があり、新たな一歩を踏み出すという意味でも、2020年は日本にとって、長い停滞を打破するラストチャンスとなる1年だと考えています。それほど重要な意味を感じていたため、通常の編成では4月にすべきリニューアルを、1月に行いました。

新型コロナウィルスの蔓延で、今年のはじめから大きなピンチを迎えてしまったわけですが…。リーマンショック、東日本大震災とガイアが誕生した平成の時代は困難の連続でした。なので、また新たな困難が襲ってきた、と思うこともあります。でもきっと、前向きに誰かのために闘う人たちはいる。新たな「夜明け」のきっかけを作る人はいると信じています。

ガイアの取材陣は「一隅を照らす」精神で、この暗い局面であっても動いている人たちを取材し、ドキュメンタリーを制作していきます。今こそ、ガイアの夜明けという番組が必要になるのだと、その志と信念の下、毎週の番組をお届けして参ります。

(編集:原光樹 構成:半蔵門太郎)

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