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2023年の広報・ブランディングを考える4つの視点──PRパーソン新春座談会

広報・PR領域やブランディング・クリエイティブ領域において、2023年はどのような変化があるだろうか。企業に求められる責任の幅の広がり。Cookie規制以降のマーケティングのあり方や、コンテンツへの期待感。制作スタイルの変化……。Story Design houseでPRやブランディング、クリエイティブのプロフェショナルとして働く新井達斗志、田邊都、細越一平、横山ふみの4人に注目トピックを聞いた。

新井達斗志(あらい・たつとし)
Story Designer / Manager。9年に及ぶ人材サービス会社での営業、営業企画の経験から、組織の戦略策定〜実行に強く、ビジネス系メディア戦略やメッセージ開発のアプローチを行う。

田邊都(たなべ・みやこ)
Story Designer / Director。リノベーション系建築事務所で建築士としてデザインからPRまで幅広く取り組んできた実績を活かし、作り手と消費者をつなぐストーリー設計を行う。

細越一平(ほそこし・いっぺい)
Story Designer / Content Strategist。主にBtoBマーケティングにおける最新の知見を元にコンテンツ戦略策定から実制作(Web・紙媒体/テキスト・写真・動画)までを担当する。

横山ふみ(よこやま・ふみ)
Story Designer / Senior Creative Directer。映像制作会社を経て入社。共感を生むストーリー開発を元に、映像・コンテンツ制作を行う。デジタルマーケティングやイベントなどリアルとデジタルを絡めた情報発信に取り組む。

ステークホルダー資本主義はどこまで広がるか

新井:広報・PRにかかわるビジネスの大きな変化として「ステークホルダー資本主義」をあげたいと思います。企業が株主や顧客といった直接的な利害関係者だけに貢献するだけではなく、従業員や地域社会、地球環境といったより広い関係者に貢献するべきだという考え方です。

企業の社会的な責任という文脈でSDGsとも近いですね。広報・PRはメディアとの関係が深く、公益性・公共性を求められることの多い領域ですが、社会のなかでどのような役割を果たすのかを丁寧に説明していくことが、ますます求められていくだろうと思います。

新井氏

細越:企業が社会と関係性を構築するうえで、なにをよすがにするかを明確に定義し、提示することが必要になってきています。まさにPublic Relationsですよね。

横山:これは難しい話ですよね。総じて企業のコミュニケーションは「優しく、正しい」方向になってきていると感じます

新井:日本には「三方よし」に代表される考え方が昔からあるので、目新しいものではないですが、どれくらい深く浸透するかは、ちょっと読みきれないところがあります。

たとえば、「エシカル消費」という言葉があります。環境や地域に配慮した消費行動をしようというものですね。しかし、メディアが報道するZ世代の若者の声として「エシカル消費に関心はあるものの、経済的に余裕がなくて難しい」という話もあります。「高くても環境によいものを買う」といった消費行動を、やりたくてもできないのです。

一方で脱炭素など、短期的には不透明でも長期的に見ると確実に取り組みが進むであろうものもあります。
ステークホルダー資本主義という言葉が含むエレメントにおいても何が生活者に根ざしていくものになるか。景気状況も含めて、注意深く見ていく必要があると思います。

Cookie規制以降の変化

細越:マーケティング分野では、欧米の潮流や個人情報保護法の改正を経て、「Cookie規制」が現実のものとなってきました。各企業は生活者や顧客とコミュニケーションを取るための手法を再検討しています。

これまで顧客獲得型のデジタルマーケティングに特化していた企業であっても、生活者と全方位で向き合うことが求められるでしょう。具体的には、生活者との直接的な接点である商品や店舗およびサービスの価値を高める、幅広いマーケティング手法を活用する、マスコミュニケーションの重要性は認識しつつも、自社の顧客を明確にしたうえで個別最適なコミュニケーションを行い、コミュニティを形成する。そのような施策が求められます。

また、コミュニケーション戦略を複層的に展開するうえで、広報・PRとマーケティング、そしてセールスといった各領域の距離も近づいています。どの領域であっても、予算を投下してコミュニケーションの実験をするというより、最終的な収益に直結する施策が重視される傾向が強まってきていると感じます。

細越氏

新井:PRとマーケティングの統合については、私もよく聞きます。協力していく必要はもちろんあります。しかし、デジタル化が進むマーケティングとの統合において、広報の数字の可視化は簡単ではありません。メディア掲載を広告費に換算するような伝統的な手法以外で、どういったやり方がありうるか。ステークホルダー資本主義のような公共性・公益性を重視する流れもあるなかで、数字も追わなければならない。難しい時代ですね。

細越:すべてに共通しているのは、事業の継続性を図ることだと思うんですよね。目の前の数字を達成することから会社の意義を伝えることまで、広く、深い視点で事業を伸ばすためのコミュニケーションを考える。そのためには、それぞれの領域に留まっていてはいけないなと思います。

クリエイティブの本質が問われる時代に

横山:デジタルマーケティングでこれまでのような精度が出しづらくなるなかで、消費者に心から求められるオーガニックなコンテンツを制作できる企業が伸びると思います。そのためには、広くマスをイメージして作るコンテンツではなく、ユーザーのペルソナを高い解像度で描き、そこにピンポイントで刺すコンテンツが必要でしょう。

横山氏

細越:4マスの影響力も未だにありますが、全体としてみれば個々人の情報摂取の方法は細分化の一途をたどっています。YouTubeや各SNSプラットフォームなど、状況に応じた動画コンテンツを柔軟に制作・活用できるチームをつくれるといいですよね。

横山:はい。そのためにも、先ほど細越さんが言っていた領域横断的な視点が重要になってきていると思います。広報や広告は、あくまでひとつの手段。事業の本質を効果的に伝えるためには、広報的手法、広告的手法を横断しながら横串を通したメディアミックスの展開が求められると思います。

田邊:組織内だけではなく、クライアントと制作会社など、発注者と受注者の関係性も変わっていかなければいけないですよね。最近では、両者の距離を近づけて、一緒に制作していくスタイルがみられるようになってきました。

コンテンツの骨組みやトンマナをしっかり設計し、その原則を部署や会社の壁を超えて共有する。そうすれば流動的なチームであっても、一貫したブランディングができるはずです。

横山:そうですね。そうしたチームを上手に率いて、コンテンツのディレクションができるプロデューサーや編集者的な人材が求められると思います。

受発注の関係を超えた制作スタイル

田邊:コンテンツづくりの変化についてもう少し話したいと思います。変化の背景にあるのは、ファイルのクラウド化が一般企業の間でも浸透し、発注側と制作側が同じファイルを共有するようになったことや、コロナ禍によるリモートワークの普及です。

これによって、制作のプロセスやツールもかなり変わってきました。たとえば、Figmaを筆頭に、コラボレーションを前提に設計されたツールが次々と出てきています。ちなみに、FigmaのCPOの山下さんは、制作プロセスの変化を以下のような図で表現しています。PMやデザイナー、エンジニアが相互の役割を超えて協働し、みんなでひとつのデザインをつくるイメージです。

Figmaが目指すデザインのあり方|ふじけん / kenshir0fより

いわゆるデザインシステムのように、デザイナーと非デザイナーなど、様々な立場の人間が共同作業をするうえでのルールを整備する会社も増えてきました。デザインシステムは、とりわけSaaS系の企業では、当たり前のようになりつつありますね。

田邊氏

細越:興味深いですね。クライアントからすると、こうしたルールができてくれば、自分たちで自走していく道も見えてきそうです。

田邊:そう思います。デザインシステムに触れたのは、コンテンツ制作にかかわるディレクターにも、こうした側面があるのかなと思うようになったからです。具体的には、デザインシステムそのものではなくとも、コミュニケーションの仕組みを設計したり、それぞれのスキルが活きるようなワークフローを整理したりといった業務です。

制作のスピード感が高まり、チームには組織内外の人材が入り交じる。クリエイティブの現場の流動性が高まるなかで、制作におけるルールづくりの支援や改善は、私たちのように間に立つ人間がこれから担っていく仕事になるのではないかと思います。

──ビジネス全体から制作現場の変化まで、2023年の展望を幅広くお話をいただきました。まだまだ話足りないですが、時間になってしまったので、ここで対話を終えたいと思います。ありがとうございました。

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