1行のコピーと1枚の写真に込める、PRイベントの価値──菅原敬太さん(イベントクリエイター)
私たちStory Design house(以下、SDh)は、クライアントのPR・ブランディングを支援するにあたって、社外パートナーとの恊働に積極的に取り組んでいます。フォトグラファー、デザイナー、ライター、編集者……さまざまなクリエイターが集まって、SDhのクリエイティブチームを形成しているのです。
そんなSDhの生態系をお伝えする本連載。今回は、新商品発表会や記者会見など広報・PRイベントで協働している、イベントクリエイター・菅原敬太さんにお話を伺いました。
広報・PRイベントのスペシャリストとして
──まず、菅原さんが代表を務めるシンクロニシティトウキョウの事業について教えていただけますか。
僕たちは、広報・PRイベントの企画から実行までをプロデュースしています。過去にはHUAWEIやジェットスターといった企業の新商品・サービス発表会や、ブリトニー・スピアーズの来日会見など、さまざまな記者発表を手がけてきました。
組織としては、代表の僕がイベントクリエイターとして全体を統括しています。多くのプロジェクトでは、自分以外にシナリオライターと空間デザイナーを加えて、3人のチームで動くことが多いですね。
いわゆる大企業ではなく、クリエイター中心で動いている会社ですから、スピード感がウリです。たとえば、打ち合わせに出たらその場でかっこいいもの、おもしろいものを提示できる。それが強みだと思います。
自分たちがもつ強みを発揮するためにも、対等に話し合い、コラボレーションできるクライアントやパートナーが大切だと考えています。まさにSDhの方々もそうです。クリエイターが制作に向き合いやすい環境をつくってくださるので、ありがたいですね。
──ありがとうございます。株式会社ジャパンディスプレイの発表会「JDI Future Trip -Creating Beyond-」など、さまざまな機会で協働させていただいていますよね。
1行のコピーと1枚の写真
──広報・PRのイベントを制作するうえで、もっとも重要なことはなんだと考えますか?
イベントの目的はクライアントがメディアやSNSでの露出を獲得することであると強く意識することです。イベントそのものはあくまで手段であって、決して目的ではありません。そのことを踏まえたうえで、イベントの空間設計や構成、演出をしています。
そのために、僕たちは1行のコピーと1枚の写真にこだわっています。発表会にいらっしゃる記者の方々にとって、読者の感情を揺さぶるコピーと写真があったら、記事を書きやすいですよね。このことから逆算してイベントを考えるんです。
たとえば、ジェットスターが大阪とオーストラリアをつなぐ便をつくったときは、記者発表の場にオーストラリアのビーチを再現しました。日本にオーストラリアが出現する、それだけで記事になる絵が浮かびますよね。大変な企画でしたが、実際に多くのメディアで取り上げていただくことができました。
──企画段階から記事化の方向性を検討する、まさに広報・PR領域のイベントにおいて重要なポイントだと思います。
ありがとうございます。当たり前のことだと思うのですが、この点を真面目に考えられる会社は意外と少ないのかもしれません。たしかに、ドラマや映画を見ていても、イベント会社の社長ってチャラい雰囲気で描かれることが多い(笑)。そういうイメージは変えていきたいですね。
ファッションとプロモーションの関係
──イベントを企画するうえで、参考にしているものはありますか。
個別の案件や領域を超えて共通しているものとしては、ファッションですかね。僕は文化服装学院出身で、もともとファッションショーを企画していたんです。そのこともあって、昔からずっと参考にしています。
実は2015年から母校で「ファッションプロモーション」という授業をやっているんです。そこではファッション業界の卵である学生たちに対して、ファッションの専門家になれば、アパレル以外のどの業界でも役立つ力が身につくという話をしています。いまは共感による消費が強い時代ですから、ファッションやカルチャーのセンスをもっていると、強い武器になります。
なぜなら、ファッションには最新の情報をとらえ時代の空気をつかむ情報力や、多種多様な要素をスタイリングする編集力、対象を魅力的に打ち出すブランディング力といった、プロモーションに不可欠な共感性を生む要素が詰まっているからです。
──興味深いですね。ファッションを通じて、プロモーションに必要な感覚が養えると。
僕自身、そのことが役立ったと感じたことがあります。たとえば、Netflixオリジナルドラマ『ゲットダウン』の記者会見を手がけたときのことです。ヒップホップの歴史がテーマになっている映画ですが、ただそのことを示しても面白さは伝わらない。
そこで、高木完さんやいとうせいこうさん、スチャダラパーといった日本のヒップホップのレジェンドたちをお招きして、座談会をおこなったんです。あえて台本は作り込まず、トークイベントのような雰囲気を演出しました。司会のいとうせいこうさんの素晴らしい仕切りもあって、作品のリアルな魅力が伝わるトークになり、多くのメディアでイベントの模様を詳細に書いていただくことができました。
──まさにカルチャーのセンスがプロモーションに活きた事例ですね。
そうですね。ちょっと硬い言い方になりますが、こうしたファッション感覚は、プロモーションの仕事をするために必要な教養の一種だと思うんです。かっこいいものをたくさん見ていれば、ITでも消費財でも、業界を問わず活躍できるはずです。
「優れた演出があれば、全世界で見てもらえる」
──最後に、会社としての今後の展望を教えてください。
いま目指しているのは、グローバル企業が全世界でおこなう発表のメインとなるイベントを手がけることです。
そう思うようになったきっかけは、HUAWEIの新商品発表会でした。僕たちが東京の発表会で演出用に撮影した写真が好評で、本社でも使用したいという依頼があったんです。それから、SDhの方々とご一緒させていただいたFigma(※)の大規模コミュニティイベント「Schema」でも、東京のイベントは良かったと言っていただくことがありました。
こうしたグローバル企業の案件で評価をいただくなかで、日本でイベントをやっていても、演出や見せ方が優れていれば、世界で見てもらえるんだと実感できたんです。昔からパリやミラノ、ロンドンといったヨーロッパのコレクションを見てきたので、その感性が活きるような仕事をしたいと思っています。
──SDhで取り組むPRやブランディングにおいても、イベントは重要な手段のひとつです。今後もぜひ協働の機会があればと思います。本日はお話を聞かせていただき、ありがとうございました。